「練習が全然できてないの~」と言いながら、明らかにレベルアップしている闇連専門のレディースたち。そう、彼女たちのバックには個人レッスンが得意なコーチがついているのです。予約待ちしてでも教わりたいスゴ腕コーチとは? その人気の秘密に迫ります。

会話とボールが弾む理想的な師弟関係

全日本学生選手権シングルス3位、全日本学生選手権ダブルス準優勝、関東社会人選手権 シングルス・ダブルス優勝……etc まとめますと、卓球が上手い中年男性こと原田隆雅さんの個人レッスンを取材しに東京・江戸川区にある礼武道場へ。ご近所に住むシニア女性・古賀さんとのレッスンを見学させてもらいました。

原田さんの古賀さんへの指導歴は11年。阿吽の呼吸でレッスンが進みます。

原田さん「何の練習がしたいですか?」

古賀さん「ストップがやりたいです」

原田さん「OK。ブロックね!」

私はズッコケて「古賀さんはストップの練習がしたいそうですよ」とツッコミを入れました。すると原田さんは「ストップって言いながら手はブロックの構えだったから。古賀さんはブロックがやりたいんです」とさらり。「エヘヘ」と照れ笑いをしながら頷く古賀さんをみるとどうやら本当らしい。さすが長い付き合い。おばあちゃんの話を翻訳できる孫のように、原田さんは古賀さんの空気に耳を傾けているようでした。

古賀さんの個人レッスンは2時間と長丁場。その最初から最後まで会話が中心です。「花粉が云々」の季節ネタから始まり、「尾瀬に登った~」という旅行の話、そして肝心の卓球のアドバイスまで。バックに構成作家がついているんじゃないかと疑うほど8秒に一回のタイミングでドカーンと笑いが起こります。

原田さん「ボールを目で追いかけすぎ。足元に犬のウ〇コが転がっていたら避けられない」。

古賀さん「えーっ!!!(慌てて足元を見る)」

それはまるでベテラン漫才ペアのようなかけあい。私はM-1の決勝をかぶりつきで見せてもらっているようでゲラゲラと笑いっぱなし。ネタでお腹がいっぱいになったので、休憩のタイミングで取材を終えようとしたところ、古賀さんからタレコミが入りました。

古賀さん「原田さんは今までの人生で出会ったことのない人よ。とにかく、ほかの人と感性がまったく違うの!!!」

私「?????」

古賀さんは私に訴えかけるように「感性が違う!」を連呼。古賀さんの空気に耳を傾けると「帰るのはまだ早い!」と言われているような……。激動の昭和を生き抜いた齢80の古賀さんに「これまでの人生で出会ったことがない」と言わしめる原田さんとは何者なのか。おしゃれパーマに金色のメッシュ。ただのM&A(ミドルエイジ)ではなさそうです。

武士道の精神が宿る人と場所

原田隆雅さんとは一体何者か? そのルーツはカーテンの向こう側にありました。個人レッスンスペースを区切るカーテンを開けると、そこは卓球台が5台置かれた広々とした空間。一見普通の卓球場なのですが、目線を上げると厳かな武道場の雰囲気。ラケット家紋入りの「礼武道場」の看板を中心に「心技体智」と書かれた額装や「無双」と書かれた横断幕、二刀(ラケット)流の原田さんが描かれた水墨画が壁の四方を飾ります。本棚に並ぶのは宮本武蔵の「五輪書」。

シャキーン!!!!!

抜刀のような音を立てて、私の猫背は完全に伸びました。出会った時からハードボイルドな香りは漂っていましたが、原田さんはもしやラストサムライ……。心にたすき掛けをして原田さんに卓球場武道化の理由を尋ねると、「小学校時代に通った卓球教室の影響」とこたえてくださいました。

原田さんのご出身は山口県。当時、近所にあった「馬関卓球道場」は、町の小さなクラブながら全日本ホカバの上位を占める人材を輩出。原田さんをはじめ、出身者の8割が大学の卓球部で活躍したのだとか。そんな強豪クラブを仕切るのはさぞかし卓球界で地位を築いた選手と思いきや、「監督は卓球選手ではなく武道家でした」と原田さん。剣道と居合をたしなむ馬関の岡野監督は、お父様が開いた卓球道場で畑違いの指導をスタート。ゆえに教え方も独特で、「それでは斬る前に斬られる」や「間(ま)を切れ」など、剣術の言葉で原田少年に太刀(ラケット)と心のさばき方を伝えました。

「僕たちは岡野監督から武道を学んでいたんだと思います。なのに卓球で毎年多くの全国ランカーが馬関から出ました。そこには何か理由があったはず。僕はその理由をいまだに探し求めているのです」。

長い休憩が終わり、レッスンが再開。時間の経過とともに古賀さんの動きが格段によくなっていることに気づきました。失礼ながら初めはお年のせいで動きに制限があるように見えましたが、2時間のレッスン終了時には身体をしなやかに動かしながらラリーをされていました。原田さんとたわいもない会話をし、笑いながらラリーをし、気づけば卓球が飛躍的に上達している。

その理由は一体何なのだろうと思って原田さんに尋ねると、古賀さんが割って入り……。

古賀さん「わたし、卓球は心の会話だと思っているの。返ってくる球にその人の心がこもっている。ここでは、そんな心のこもった温かいボールをもらうから上手くなるのかも……」。

原田さんの顔をちらりと見上げ「エヘヘ」と照れた笑みを浮かべる古賀さん。

バサリ!!!!!

原田さんが斬る前に、古賀さんが斬ってしまった。

卓球上達の秘訣は心の会話。人生の大先輩が言うんだから間違いないでしょう。

原田隆雅コーチ

東京都江戸川区にある卓球クラブ・礼武道場主宰。日本スポーツ協会公認卓球コーチⅣ。
6歳から卓球をはじめ、同志社大学卒業後は実業団のリコーで活躍。関東社会人選手権シングルス優勝、ダブルス優勝。ジュニア育成のかたわら大人向けの初中級教室も開く。

原田さんの個人レッスン 50分 6,600円

住所:東京都江戸川区中葛西2丁目24-12丸栄輸送3F
TEL:03-3804-0402
http://revedojo.jp