
世界卓球後の座談会
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こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。64年ぶりの男子ダブルス金メダル獲得に沸く日本の片隅で、ささやかな座談会を開きました。その話題とは?
5月17日~25日、カタールのドーハで世界卓球が催されていましたね。私は数か月前から始まりを心待ちにしていたし、いざ始まると仕事をなるべく早く切り上げて動画観戦できるように日々調整していました。まぁ、いつものことなんですけど。いつもと違うのは、今回、世界卓球が終わった後に、ご近所の卓人・Nさんとそれについて語り合う約束をしていたこと。その座談会も楽しみでなりませんでした。私のオタクな卓球話を聞いてくれるのは、うちの猫だけでしたから。ニャーニャー(めんどくせえめんどくせえ)。
さて、座談会の開催場所はLINEで往復のやりとりをしたのち、近所のロイホ(ロイヤルホスト)に決定。そして19時から閉店の23時まで世界卓球について語りまくる予定で集まりました。私が話題にしたかったのは、大ベテランの松平賢二さんの奮闘、大吉ペアの躍進、美誠ちゃんの銅メダル、篠塚選手の1回戦の逆転劇、美和ちゃんの見事な異質対策、ベンチコーチの華やかさなどいろいろ。Nさんも卓球に詳しい方なので、出場選手の裏話や戦術、技術など、どんな話が出るか期待しかありませんでした。
そして、その日が来ると、私たちはテーブル席につくなり、世界卓球の興奮の熱量にまかせて「すごかったねー」と、自分たちのしゃべりたいことを一方的に、お互いの言葉にかぶせながら、もはや会話にならないレベルで、ぶちまけました。その熱々の時間は注文したオニオンスープが煮立つまでの15分。
「クンヨンちゃんがかよわく見えた」だの「ニーシャリエンがいないと寂しい」など、球界限定の有名人の名前を出してはゲラゲラと笑って盛り上がる私たちに、周りのお客さんはドン引きしていたのではないかと思います。ロイホをヒートマップで俯瞰すると、我々の席は真っ赤で、その周りはブルーだったんじゃないかなと。
しばらくして、私のもとにオニオンスープが運ばれてきました。それをひとさじ口に運んで舌鼓。う~ん、うまい、甘い、濃ゆい、これぞロイホ定番の味よ。くたくたになった玉ねぎと温かいスープが五臓六腑に染みわたると、私はようやく落ち着きを取り戻すことができました。
「ロイホに来たら必ずオニオンスープを頼むんです」と私がグルメ気取りで言うと、Nさんは「私は絶対グリルチキンサラダ。サラダなのにチキンのボリュームがすごいのよ」と運ばれてきた通好みの料理をさらりとすすめてくれました。焼き色がおいしさを物語るチキンのステーキ。その馥郁たる香りに一瞬気を取られましたが、卓球の話に戻ると互いの食事の手が止まるほど会話のゾーンに入っていきました。
それなのに話題はなぜか「世界卓球」から「ロイホのメニュー」にパスが渡り、さらに「卓球を始めたきっかけ」に渡り、なぜか「子供の習い事」に渡り、最後は「夫とのなれそめ」にゴールしました。
会話のハイライトシーンをたどると……
Nさん「伊藤条太さん『ようこそ卓球地獄へ』の本を図書館で見つけた時はうれしかった~」
私「中央図書館ですよね? 私も見つけて借りました。『卓球天国の扉』も置いてましたよ」
×××
Nさん「将来のことを考えると、子供が幼い頃にピアノを習わしておけば良かったと後悔しているの」
私「うちは子供に卓球を習わせました。私みたいな我流のクセがついたら将来困るだろうな~と思って」
×××
Nさん「私は夫よりも夫の乗っていたバイクにひかれて初デートに行ったのよ」
私「私はバイクの運転中、車にひかれて。不びんに思った友達が退院後に合コンを開いてくれた。それが夫との出会いでした」。
長い長~いおしゃべりに夢中で、私たちはドリンクバーにおかわりしにいくタイミングを失い、喉をからしておりました。うちの近くには2軒ロイホがあり、「バンホーテンのココアが飲み放題なのはこの店舗だけだから」とNさんはわざわざ少し遠い方のロイホを選んだにもかかわらず、彼女は初めに淹れた1杯しか飲んでいなかったかもしれない。めんぼくない、めんぼくないけどそんな罪悪感はお腹いっぱいになるほどの楽しい時間に希釈された。そして、その楽しい時間は美誠ちゃんが王芸迪相手にノータッチで決めたまわり込みスマッシュ並みにはやく過ぎ……。
「ご来店ありがとうございました」的なアナウンスを聞いて、ふと我に返りました。時計を見ると23時8分。周りには後片付けに急ぐスタッフの姿が。どうやら客は私たち二人だけの様子でした。「あれっ、足がしびれてる!」。私はいつのまにか靴を脱ぎ、ソファの上で正座していたようです。たわいもない話をするのに、この折り目正しさは必要か? 私はあわてて靴をはき、Nさんとともにヒートマップ上の真っ赤な点を席~レジ~店の外へと移動。
するとNさんが外の空気を吸い込んで「あ~もう、しゃべりたりないっ」という言葉を天に向かって吐き出しました。それもそのはず、世界卓球の話をする予定で集まったはずなのに、世界卓球の話は1時間もたたないうちに終了。それからはお互いの家庭の話で大盛り上がりしてしまったのです。「こんな卓球のマニアックな話はママ友にはできないよねー」なんて言いながら、ママ友の誰とでも盛り上がる話題に終わってしまった。夜の冷たい空気にさらされてからの気づきです。
お互いの予定を合わせてもう一度、ロイホで世界卓球の話をしようと約束をしましたが、果たしてその指切りは果たされるのでしょうか? もう一度集まる約束、世界卓球の話をする約束、どちらも守られるか、どちらかが守られるか、それともどちらとも守られないか……。
と、私はNさんがパリッと焼けた皮のチキンを美味しそうに頬張る姿を思い出しました。オニオンスープを忘れて、チキンの香ばしい香りに心躍らされる一瞬があった。64年ぶりの金メダル獲得の歓喜に湧き立った、あの瞬間のように。
「そうだ。次は私もグリルチキンサラダを頼もう」
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