「練習が全然できてないの~」と言いながら、明らかにレベルアップしている闇連専門のレディースたち。そう、彼女たちのバックには個人レッスンが得意なコーチがついているのです。予約待ちしてでも教わりたいスゴ腕コーチとは? その人気の秘密に迫ります。

全中の選手宣誓で主役の座を奪われる

1997年、地元高知県開催の全中に浮かれ、スベってしまった少年がおりました。その名は川口陽陽さん。名門・明徳義塾中学校のキャプテンとして全中の開会式に登壇し、選手宣誓の手を高々と天へ向かって突き上げた瞬間、セリフがすべてぶっ飛んだのです。

「あせりましたが、隣に立つ女の子がセリフを教えてくれて助かりました」。

川口さんの伸ばした手とは逆方向に流れる冷や汗。それに気づいた女子部員が、川口さんにセリフをひそひそと伝言。その姿はまるで某高級料亭のささやき女将。ナイスサポート賞の彼女が“つかみ”をものにして、この年の全中は幕を開けたのです。

「落ち込んでいたら、ある学校の監督に言われたんです。『開会式であんな失敗したら、試合怖くないよね』って」。

その言葉で吹っ切れたのか、川口さんは団体戦で活躍し優勝に貢献しました。気分が高揚した川口さんは自分の人生にも選手であり続けることを宣誓。その後、同高校、専修大学、原田鋼業へと進むなかで、何度も指導をお願いされるも、すべて断り選手活動に専念しました。

「自分の選手生活で精一杯。誰かを責任をもって教えられる自信がありませんでした。そもそもコーチ業に興味がなかったもので」。

生涯現役を目指しましたが、20代後半にさしかかると卓球を続けるため転職を考えるようになりました。将来について悩んでいると、知り合いから「一緒にやろう」と声がかかり、東京にある卓球場で働くことに。行く末が見えずその場つなぎで始めたコーチ業でしたが、仕事疲れを見せず練習に励むサラリーマン卓人の熱心な姿を見て、川口さんの心は動きはじめます。

「実際にやってみると、コーチのイメージが変わりました。どんな立場の人であっても、生徒とコーチは尊敬しあえる良い関係でいられるし、どのようにその人の役に立っているかも肌で感じられる。自分の卓球場を持ってコーチと接客業のプロになろうと決意しました」。

石橋を即効でたたきまくって進むタイプと自称するほど、自分の卓球場を出すと決めた川口さんの行動はマッハ。決意の翌日から不動産会社をまわり、3ヵ月立たないうちに卓球場をオープンしました。それが「YOYO TAKKYU東中野店」です。

すべては上達のため、生徒の課題をとことん追求

「責任を持って教える」と腹を据えた川口さんの指導は、原因探索型に落ち着きました。生徒さんの「これができない」というお悩みをとことん掘り下げ解決策を見つけるタイプです。

「『ひじを上げて打ってください』とお願いしても上がらない人もいるんですよ。その原因はグリップや股関節など、ひじとは関係ない場所にあったりします。根本原因をつきつめて改善するのがプロのコーチの役目かなと」。

このような指導法が生まれた背景には、自身の原体験がありました。小学校2年生から始めた卓球は市が主催するローカルの卓球教室。プロのコーチに習う機会がなかったので、自分でビデオを見ながら打ち方を研究。ひとりで卓球と向き合い、つきつめてきたからこその視点だそう。ゆえに行き過ぎることもあり……。

「レッスン中に生徒さんのフォアが気になると、とことんそれを直したくなる。1時間なのにフォアドライブの練習ばっかりやっちゃったなって、反省することもあります」。

ひとつのことをつき詰める男には行き過ぎるデメリットもあったようです。

黒服として裏方で活躍する時も

店を構え、プロコーチとしての責任感も芽生えた川口さんは、同時に接客のプロも目指しました。東京ディズニーリゾートから太陽が似合う接客法を学び、身に着けたのは月が似合うクラブの接客法。新規のお客さまが来店すれば、どこに配置するか常に目を配る黒服の役目を担うようになったのです。

コーチと生徒さんとの関係性で一番大切なのは相性だと思います。どれだけ人気のコーチでも合う人もいれば合わない人もいるので。お客様を見て、ベストなコーチとマッチングさせるのも僕の役目です」。

コーチのプロを目指す人は多くても、同時に接客のプロを目指す人は珍しい。ここが川口さんのユニークなところ。ほかにもすごいところは、ペン表でありながらシェーク裏裏で東京卓球選手権大会に出場を果たしたという万能さ。「コーチはなんでもできないと。机上の空論では指導が伝わりませんから」。と川口さんは語りますが、頑張り過ぎなのでは?

「自分が背中を見せないと、お客様もスタッフもついてきてくれません。社長は現場に入らない方がいいと言われますが、卓球場においてはそうとも限らない。今も試合に出てますしね」。

GANBARIMASUNE!!!

コーチ・黒服・そして経営者という3つの顔を持ちながら、まだまだ現役生活を続ける川口さん。全中で登壇した選手宣誓は、「選手であり続けることを誓う」という内容だったのでは?

いずれにせよ、セリフを忘れちゃだめですね。

川口陽陽コーチ

1982年生まれ、奈良県出身。明徳義塾中学・高校、専修大学、原田鋼業を経て2014年、東京・東中野にYOYO TAKKYUを設立。全日本社会人シングルス5位の戦績のほか、映画「ミックス」の卓球監修実績も。
https://www.yoyo-takkyu.com/