2025年1月26日におこなわれた全日本卓球選手権大会、男子シングルス決勝の模様をレポート。輝空くんの幼いころからの活躍で、松島家の親戚気分のレディースは多いはず。みんな泣いたよね?!

悔しい思いを跳ね返さんと10代の野望が燃える、一般とジュニアに

「このリベンジの舞台が来たので、次は絶対に倒したいと思います」。オリンピアンの篠塚大登選手との対戦を前に、17歳の少年はそう言いきった。闘志を包み隠さず。腹の底にたまったものを、すべて吐き出すかのように。

2025年の全日本卓球選手権大会・男子シングルス決勝は因縁の対決となった。昨年の同大会では6回戦で対戦した両者。セットオールの接戦のすえ、松島選手は失意の負けを喫した。勝利の瞬間、クールな篠塚選手が雄叫びをあげる一方で、うなだれてコートを去る松島選手の姿が目に焼き付いている人もいるだろう。パリ五輪出場を占う大事な一戦だっただけに、本人の悔しさは計り知れない。最後は9-11という僅差のスコアだったからだ。松島選手が卓球に触れた0歳から物心がつくまで何度も経験したであろう得点差。ところが、4年に1度しかチャンスが巡らない場面で2点差に泣くと、人はこんなにも強くなれるのかと。言葉より先に感情が見えた会見に、松島選手のリベンジへのなみなみならぬ思いを感じた。

正念場となったのは準決勝の張本戦。優勝候補の張本選手が優勢に思えたが、松島選手は日本のエース相手に強烈なシュートドライブを放ち、張本選手を終始圧倒した。試合前に「攻撃」を宣言した張本選手のお株を奪うように、ミスを恐れない強気のプレーで攻め続け、4-1で勝利したのだ。どんなに仕掛けられても、ゲームの主導権にしがみついて放さない松島選手の姿に神をも恐れない気迫が感じられた。

そして迎えた決勝戦。大勢の観客が見守るなか、コートへの花道を歩きながら、たかぶる思いを抑えるかのように何度も息を吐く松島選手。虎視眈々。いつでも戦闘態勢に入れると雄々しい表情が語っていた。気合十分でコートに立った松島選手だったが、第1ゲームのはじまりは篠塚選手の攻めに、あっさりと一本とられてしまう。いつも物腰の柔らかい篠塚選手もまた、優勝を狙う一匹の鷹だったのだ。続くレシーブも篠塚選手が積極的に攻め3点差に。ところがここで、松島選手は意表をつくサービスを繰り出した。早い打点で畳みかける連続のスマッシュも決まり、松島選手はゲームの流れを自分のものにして11-9で第1ゲームを終える。

2ゲーム目も篠塚選手の攻撃からはじまった。出だしから鋭いドライブ、飛んでいかないチキータ、回り込んでのチキータと、松島選手の読みを外す展開となり0-4とまたもや先手をとられてしまった。しかし、ここで松島選手が回り込みドライブでストレートを突いた。ミドルへの巧みなレシーブも効き、劣勢を感じた篠塚選手が9-9でタイムアウト。仲間からのアドバイスに篠塚選手は落ち着きを取り戻したが、勢いづいた松島選手を止めることはできなかった。松島選手は2ゲームとも9-9から先に2本をとり、逆転に成功した。

2ゲームを先行し波に乗った松島選手は、第3ゲームも攻撃の手を緩めなかった。ボールを打ち上げても、恐れずに大きく振り抜く。相手に打たせても力強いカウンターで攻める。松島選手の猛攻は止まらなかった。篠塚選手も電光石火のストレート攻撃をしかけるが、その後のリスクの高い攻めがミスにつながりオーバーに。11-3と離れたスコアで松島選手が3ゲーム目もとる。

ゲームカウント3-0。このままいけばストレートで松島選手の勝利というところで潮目が変わった。第4ゲームは篠塚選手のサービスが序盤から効き、一方の松島選手は平凡なミスが目立ったのだ。松島選手はフォアサイドに回り込んでバックハンドでストレートに抜くといった果敢なプレーも見せたが、篠塚選手の流れを止められず6-11に。卓球の神様は簡単に勝たせてはくれないのか。松島選手は1ゲームを奪われてしまった。

第5ゲームも篠塚選手の強気のプレーから。松島選手のロングサービスを回り込んで一撃のストレートでしとめたのだ。篠塚選手は巻き返しを図るために、さらにギアを上げたのだろう。ところが、松島選手も篠塚選手の気合を封じるような攻撃をしかける。カーブやシュートといった多彩なドライブで得点を重ねたのだ。力強い一本がコートに叩きつけられるたびに、会場が歓声にわく。見惚れている間にスコアは10-2と大きく開いた。優勝まであと一本。この場面で、篠塚選手は質の高いバックストレート攻撃で対抗したが、最後はその勢いのまま攻めたドライブがオーバーに。松島選手の勝利が決まった。ゲームカウントは4-1。

優勝の瞬間、両手を広げ、観客の拍手をあおる松島選手。大きな声援を送り続けた家族やファンに向かって親指でグッドサインを出したのが印象的だった。JOCエリートアカデミーや木下マイスターなど、どんな虎の穴に入ろうとも、卓球の原点はご両親が営む田阪卓球会館。ここまで支えてくれた方々に感謝の気持ちを伝えたかったのだろう。

「パリオリンピックでは自分が出ることができなくて悔しい思いをした。どこか大きな舞台で倒したいと思っていたので、ここでしっかり勝てて良かったです」。有言実行。頼もしい松島選手だが、試合後のインタビューでは、記者にショットをほめられると、勝負師の顔が崩れて、はにかむ場面もあった。

まだ17歳。松島選手は、愛くるしい表情とハスキーボイスでホカバを盛り上げてくれた輝空くんであることを忘れてはならない。ジュニアの部で優勝した同級生の吉山和希選手も然りだ。今度は一般の部で若い二人が因縁の決勝対決を繰り広げてくれることを想像すると、日本卓球の未来は明るい。