昨年、8月に開幕した2024-2025シーズンもいよいよクライマックスに。ノジマTリーグの頂上決戦であるプレーオフの足音が近づいてまいりました。選手や観戦者ではなく、大会運営者や関係者にとって、Tリーグはどのような彩りを感じる世界なのか。今回は、選手たちの一本一本を実況という立場から見守ってきたフリーアナウンサーの植草結樹さんに話を聞きました。

現代卓球のスピードに実況が食らいつく

卓球の実況や解説は、誰にでもできるもんじゃない。頭の回転が速く、集中力のある人じゃないと務まらないでしょう。だって、ラリーのスピードが速いもの。それを正確にとらえてアウトプットしなくちゃいけない。選手もすごいけど、実況・解説者もプロフェッショナルですよね。そんな卓球を観ること、報じることがお仕事の人にとって、Tリーグの世界はどう見えるのか? 前から気になっていたので、フリーアナウンサーであり、卓球の実況も担当されている植草結樹さんに質問してみました。

―卓球の実況席はどこにありますか?

「会場と同じ体育館にある別室でモニターを見ながら実況することがほとんど。会場で観戦できるといいですね。2月にベイコム総合体育館の客席で日本ペイントマレッツと九州アスティーダの試合を観たのですが、天井に響くような打球音も心地良く、ボールの回転の方向を目で追うこともできました。放送席では感じられない臨場感がありましたよ」。

―さまざまな競技の実況を担当されていますが、卓球やTリーグにしかない魅力的な場面はありますか?

「デビスカップは別として、テニスのサービスは観客が静まるなかで始まります。卓球も同じで、サービスの前にパッと応援が終わる独特の作法があります。Tリーグの場合は、そこに応援の演出が加わることも。例えば日本ペイントマレッツはMC AMIさんがDJで盛り上げられた後に、静かな瞬間が訪れます。その間が次の展開に心を躍らせてくれますね」。

―実況を忘れて試合に没頭してしまうことはありませんか?

「卓球は見せる競技で、ラリー中はなるべく静かに応援するのが作法ですが、思いもよらない変化でサービスエースが決まると、思わず声が出てしまう場面があります。また、ラリーの応酬で両者が粘って勝負がつく瞬間も『うん、どうだ!』と言ってしまうときがある。最近では、日本生命レッドエルフの笹尾明日香選手や赤江夏星選手などの若手の活躍が素晴らしいので、どんな瞬間に決着がつくのだろうと試合に没頭してしまう時がありましたね」。

―解説の方とのコンビネーションも大切ですよね。

「はい。卓球の中継は解説者なしでは成り立ちませんから。中継は、こちらが細かい描写で盛り上げたあとに、解説者から詳しい説明が入る流れになっています。私は高島規郎さんや田代早紀さんと組ませてもらうことが多いのですが、阿吽の呼吸でこちらが聞きたいことを語ってくださるんですよ。お二人とも優しい性格で、理路整然とした口調ですが、卓球に熱い想いを持ってらっしゃいます。「最後は気持ちの強い方が勝つ」とよくおっしゃるのですが、先日おこなわれた日本ペイントマレッツと日本生命レッドエルフの最終戦では、同じ大阪をホームにするマレッツがレッドエルフをくだして悲願の1位通過をなしとげました。カットマンの橋本選手とドライブマンの赤江選手の対戦では、「普段からどんなにラケットを振っていても、緊張感のある試合では4ゲーム目から体力がなくなり、スイングができなくなる」という高島さんの言葉通りの結果になったと思います。

―ほかの競技の現場で、Tリーグにもこんな仕掛けがあればおもしろいのにと思われることはありますか?

「例えばプロ野球は試合後に一定数の観客がバッティングセンターに流れます。試合に熱狂したファンが、印象的なプレーをバッティングセンターで再現したくなるんですよね。同じように卓球も試合後の興奮を背負ったままラリーできる場所があればいいなと思います。会場の台で少し卓球ができるとか、試合後にファンが盛り上がれる仕掛けがあるといいですね」。

たしかに、私も全日本選手権を観たあと、狂ったように練習した卓人のひとりですから。ぜひとも選手の試合を観た後の興奮をぶつけられる場所がほしいですね。さて、3月22、23日のプレーオフが迫ってきました。頂上決戦はいかなるものでしょうか。サービスの瞬間の静けさに息をのみたいと思います。