大阪・梅田にある複合施設・グランフロント大阪で8月25日(金)、26日(土)と二日間にわたりTリーグが開催。選手たちのプレー×ファンの応援で、巨大な吹き抜け会場は藤井隆の鉄板ネタ級にホットホット。その熱量を肌で感じた西村が初中級のレディース目線で大会のあれこれを語ります!

ナレッジサロンの床肌が紅潮した8月の終わり。ここに2日間限定のTリーグ会場が出現

劇的ビフォーアフターを目の当たりにするのは何年ぶりでしょうか? 

グランフロント大阪の吹き抜け広場が、紅色に染まりました。卓球のフロアマットが一面に敷かれたのです。1~5階まで、会場をぐるっと囲むように配された通路から見下ろすと、なんだか色っぽい赤だなぁ。この大人の色が似合うのは、この日のグランフロント大阪と、ソバージュヘア時代の今井美樹だけでしょう。

思い返せば、グランフロント大阪にTリーグが来ると知ったその日から、ここを通るたびに「どんな会場になるんだろう」と想像し、「私に演出のお仕事が来たら何をするかな」と想像を続け、「立体的な演出……そうだ! 5階の通路から会場の地面に向かって、ピン球の雨を降らせよう」と想像の翼を羽ばたかせ、「演出の依頼など夢だった」と気づくと、ギリシャのイカロスのごとく、赤く燃え立つマットへと仕事へのモチベーションが堕ちていったのでした。

そんな脳内ひとり劇場を続けているうちに、夢の一部は現実となり、前日入りした日本ペイントマレッツの取材が叶いました。私が選手に聞きたかったのは、翌日の試合への意気込みではなく20歳前後の乙女心。彼女たちは全国郊外の体育館を遠征で知り尽している。けれど、ここは卓球シューズで未踏の繁華街・梅田。こなれた関西人は“キタ”と言うこの瀟洒なエリアには、女子の気を引く百貨店がギュッとニョキっと集まり、ANNA SUIもあればジェラートピケもある。

同行させてもらった新聞記者がインタビューを始めると、選手のみなさんは「たとえどの会場であろうと勝ちたい」と闘志を燃やしていましたが、私がショッピングモールの誘惑は大丈夫かと尋ねると? 「ヤバイ」というザワつきが起こりました。横井選手は「チョコレートが気になる」と、チョコ好きを告白。この手のあどけない回答に、おばちゃんのハートはわしづかみにされてしまうのです。自分が産んでもおかしくない年齢と小さな体で、あの力強いラリー、あの秀逸な巻き込みサーブで会場を沸かしていただき、ありがとうございました。

静岡ジェードが120%の力を出し4₋0で勝利。森薗監督も「できすぎた試合」と振り返る

私がプレス席で観戦したのは、2日目の静岡ジェードVS木下マイスター東京戦。試合開始時刻には、2階も立ち見客でうまっていました。今宵、この場所に集うファンの推しメンは誰なのでしょうか。木下マイスター東京には、京都出身の大島選手、松島選手、静岡ジェードには大阪のクローバー歯科カスピッズ所属の松下選手など、関西にゆかりのある選手がいます。

交通の要港・梅田なら、大阪近郊の他県のファンも集まると予測していた私は、選手入場のコールで沸き立つファンに注目していました。はじめに松島選手が入ると手前席の方々が立ち上がり(勝手に親族や地元のレディースと予測)、次に大島選手が入場すると、2階から「大島~」と声が上がり(勝手に東山高校時代の仲間と予測)、そして森薗選手が入場すると、あちこちから声援が飛びました。(勝手に全国のゾノファンが駆けつけたと予測)。なんとなくファンの分布図が浮かぶと、グランフロント大阪は四面楚歌が流れない両チームにとってフェアな場所であることが確認できました。

第一マッチは森薗・龍崎ペアVS大島・篠塚ペア。昨シーズン、ベストペア賞にも輝いた大島・篠塚ペアが“静”に対し、同賞を狙う森薗・龍崎ペアは“動”の雰囲気でした。一球が決まるごとにしゃがみ込んで拳を震わせる森薗選手に、推しタオルを広げてエールを送る静岡ジェードのファンたち。その賑わいに通りすがりの一般客も足を止め、そのままエスカレーターで上の階へ。

第二マッチ、森薗選手VS篠塚選手の第二ゲームでは、10-10のデュースになると、会場のボルテージは最高潮に。3、4階も人で溢れ、卓球独特の「ヨー!」「一本!」といった掛け声に、一般客たちは意味もわからず拍手で便乗。卓人の輪に溶け込んでいました。

そしてタイムアウト明け、森薗選手が得意なチキータではなく、意表をつくツッツキで篠塚選手の読みを崩し、バックへボールを押し込んでゲームをものにすると、ゾノ劇場がスタート。永ちゃんのごとく「もっともっと」と声援をあおるようなロックなジェスチャーで、会場を大いに盛り上げました。

「応援には土地柄が出る。大阪の人たちの応援の力をパフォーマンスにかえられた」と、森薗選手ものちに来場客へ感謝のコメント。森薗選手にとって関西人のノリの良さは吉と出たのでしょうか。その後もゾノ劇場は続き、2₋2のデュースで迎えた第5ゲームは、終盤、森薗選手のフルスイングのドライブを篠塚選手が渾身のブロックで止める一幕もありましたが、エッジも味方し、最後は必殺チキータを決めて勝ち星をあげました。

この時の会場の熱気と一体感は半端なかったなぁ~。敵味方、卓人一般人、大阪人他県民、すべての垣根を越え、みんなが両者の健闘を讃えていました。幸せの白いハトを天井へ向けて放つように、拍手の音が円形の吹き抜け会場の上へ上へと響き渡るさまに世界平和を感じたのは私だけでしょうか。

第三試合は松下選手VS松島選手。この試合は両選手ともに譲れなかったんじゃないかな。めったにない大阪での男子試合。身内やファンに見守られて、絶対に負けられないという意地が両者から伝わってきました。しかし、会場は2試合を連取した静岡ジェードの空気になっており3₋1で松下選手が勝利。この時点でマッチカウントは3対0となり、静岡ジェードの勝ちが確定しました。

Tリーグのルール通り、最後の第四試合、松山選手VSリン選手も開催されましたが、勝利確定で力みが抜けた松山選手は落ち着いた試合運び。思い切りの良いプレーも目立ちました。打点の早い攻撃、バックハンドは強打一発で抜く潔さ。世界ランキング9位のリン選手相手に食らいついて攻め続ける姿に、ここまで中立を貫いてきたどちらのファンでもない層が松山選手の応援に流れたようなムード。最後は攻めのロングサービス2本で10-10に追いつき、力強いバックハンドを決めて、松山選手が勝ちました。松山選手はTリーグ初勝利。

「勝負が決まって、余裕もあるなかで松山があれだけのプレーを見せてくれた。正直、できすぎた試合」と監督の立場から森薗選手も絶賛。さらに「監督としては、選手一人ひとりが楽しみながら成長し、静岡ジェードで力を発揮してほしいと願います。今回の試合はそれがうまくハマりました」とも。今シーズンから新規参入し、6試合目で早くも目標達成だなんて確かにできすぎ君ですね。

続けて「この後、心斎橋へ行って道頓堀に飛び込みます」と冗談交じりに話す森薗選手、アフターもエンジョイできるのが都心開催のいいところかもしれません。

ナレッジプラザが再びTリーグ色に染まる日は来るのか?

週明け、試合会場に使われたナレッジプラザの前を通ると、何事もなかったような元の姿に戻っていました。床肌を露わにして。魔法の解けたシンデレラのように。だけど、この二日間はフェアリーゴットマザーのビビデバビデブー(大人の話し合い)の恩恵に預かり、ナレッジプラザが赤い色化粧で選手を盛り立て、通行客を魅了したことに間違いありません。

私もかぼちゃの馬車(市営地下鉄)に乗って、ひとときの宴(Tリーグ)を満喫したことだけは夢ではなかった。願わくば、私が残したガラスの靴(このブログ)を誰か(権力のある大人)が発見して、また王子様(選手)に会えるお城(ナレッジプラザ)へ迎えますように。

そして次回は、5階からピン球の雨を降らせてみたいな。もちろんすべてワンスターで(^_-)-☆