こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は高校時代の双子の先輩の回顧録後編。双子のダブルス戦術は吉と出るのか?

祝!卓球の所作を観察する能力がレベルUP

くりそつな双子のS先輩。入部してから4ヵ月がたっても見分けがつきませんでした。キャプテンから「フォアとバックのラバーの色がテレコ」という情報を聞き、ようやく判断の糸口がつかめると、私はラバーの色を確認しながら「T先輩」「N先輩」と下の名前でおそるおそる呼ぶようになりました。(お二人がラケットを持っていない時はあんぱいをとって名字のS先輩と呼んでおりましたが……)。

そのうちKさんが言っていた「ボールを相手に渡すとき、N先輩の方がテイクバック少し大きくてタメも長い」という意味も理解でき、ようやく公立高校レベルの卓球感覚が身につきました。入部から10カ月を迎えた春頃です。

2年の先輩は3年になり、引退を控えて練習に一層身が入るように。OBの先輩方が3年生の練習相手をしに通って来られるようになったので、私のようなヘタクソが練習相手をお願いできる空気でもなくなりました。私は遠くからS先輩たちを見つめるだけ。ラケットを見なくてもようやく見分けがつくようになってきたのに。肩を落としているとOBのA先輩が来て私の耳元でささやきました。「TとNのダブルスがかなり仕上がってる。こりゃひょっとすると引退試合はいいところまで行くかも……」

えっ、えっ、えっ、いいところってどこまでですか。だって京都には名門のダブルH高校があるんですよ。その東に連なる山々を越えていった公立高校卓球部員は今まで一人もいないはず(越えた人いたらごめんなさい)。A先輩は付け加えてこう言いました。

「戦術さえハマれば……」.

OBの先輩直伝の双子戦術はどこまで通用するのか?

A先輩の真剣なまなざし。頭のいい先輩だからきっと私には理解不能な戦術を考えているに違いない。私は10代のピュアな心でA先輩にベットしました。どうかS先輩に引退の花道を作ってください。心の中で土下座しました。

引退試合の前に春の大会がやってきました。当日の私はS先輩どころではない。自分のペン表バチバチスタイルが思いのほか対戦相手にハマり、トーナメントの階段を上ってK頂のエースと対決。そして奇跡の1ゲームを先取。千載一遇のチャンスを逃してなるものかと、公立高校の卓球史に名を残すつもりで頑張りましたが、あっさりと負けました。弱小校の絶好調が名門校の絶不調と戦ってもワンチャンはない(教訓)。いっちょこまえに落胆して、しばらく体育館の中をフラフラ。どれくらい時間がたったでしょうか、二階席に戻ると、Kさんが私を探しておりました。そして……。

Kさん「S先輩のダブルスが勝ち進んでる!」

私「!!!!!」

Kさんは私の腕をひっぱると、S先輩たちのコートの真上にある会場席まで連れて行ってくれました。見下ろすとS先輩は試合前のフォアラリー中。そして相手はなんとone of the H高校のペア。S先輩たちは公立高校の選手をなぎ倒し、H高校との試合までたどり着いたのでした。スゴイと興奮する反面、大丈夫かなと不安もよぎりました。というか不安しかない。ふと横を見ると、OBのA先輩が腕を組んで座っておりました。

A先輩「いける!(独白)」

私「?????」

Hの選手がS先輩の粒高ボールを落とすと、A先輩の目がキラーンと光りました。「これから公立高校の卓球史に刻まれる試合が始まる」と言わんばかりのA先輩の自信に満ちた表情。「うさん臭い」。私は口から飛び出しそうになった言葉をあわてて飲み込みました。

そして試合開始。

サービスはH高校から。H高校のキレッキレの下回転をT先輩が落とすと、A先輩はおもむろに立ち上がり、S先輩たちに向かって大きな声で(それでいてささやくような雰囲気で)こう言いました。

A先輩「相手、サーブうまいから。慎重に!!!」

するとどうでしょうか。A先輩の嫌みな一言にプレッシャーを感じたのか名門H高校の選手がいとも簡単にサービスミス。

ニヤリと口角を上げるA先輩。私はその不敵な笑みに身震いがしました。「卓球はメンタルスポーツ」と思い知らされた。一日30分×365日×〇〇年。コツコツ練習を重ね、お箸を持つ所作と変わらぬくらいその身にしみ込んだサービスのはずなのに。人間の緊張って恐ろしいですね。さらに試合が進むと……。

H高校「こいつら一体何者なんだ?????」

H高校のペアからそんな心の声が漏れ始めました。なぜって想像してください。同じ顔の二人が同じプレースタイルでくるくる回る、人物もラケットも。ウラ×ツブ高。だけどT先輩はフォアが赤、バック粒が黒。N先輩はフォアが黒、バック粒が赤。ラバーの色がテレコです。相手はもはや錯乱状態。どちらの色のラバーがツブ高か判別できません。

S先輩方はあっさりと1ゲームをとって先行しましたが、そこはH高校。2ゲーム目からは対応してきました。H高校の強烈な鳶ドライブが決まると、A先輩はおもむろに立ち上がり、S先輩たちに向かって大きな声で(それでいてささやくような雰囲気で)こう言いました。

A先輩「相手のドライブ、めっちゃかかってるから。しっかり止めて」

するとどうでしょうか。A先輩の嫌みな一言にプレッシャーを感じたのか名門H高校の選手がいとも簡単にドライブミス。

一日30分×365日×〇〇年~(以下同文)。

これはデジャヴでしょうか??????

さらにA先輩はS先輩に謎の合図を送りました。次の作戦に移る指令です。するとS先輩は自分たちのことを「N」「T」と逆の名前で呼び始めました。見ている私は「なになに?」と混乱しましたが、H高校の選手はA先輩の子供じみた戦術に慣れたのか、この作戦はまったく通用しなかった(涙)。

試合は終始手に汗を握る展開。S先輩方はゲームオールまで粘った甲斐もなく敗退しました。一生懸命応援した私の目にはじわっと涙が。実力勝負だったと思います。A先輩のメンタル崩壊戦術がなくても、S先輩がそっくりでなくても、バックが粒でなくても、ラバーの色がテレコではなくても。H高校のペアといい勝負だったはず。それくらいお二人は研鑽して腕を磨かれた。そして、その姿をずっと見てきた私。どっちがTかNか頭を悩ませながら。

「S先輩、感動をありがとうございました!!!!!」

↑上記のような言葉をS先輩にかけられない消極的な私は、心の中でお二人の健闘を称え、試合終わりの反省会に参加。キャプテンが「今日、応援に来てくれたOBのA先輩に拍手」というので、みんなに合わせて手を叩いていると、A先輩は片手を上げて去っていかれました。

キャプテンは続けて「A先輩は現役時代、H高校の監督に一目置かれる存在でした~」と話し始め、S先輩のラバーをウラ×粒、ラバーの色テレコにしたのもA先輩の采配だったと教えてくれました。同級生のKさんとNちゃんは卓球部内限定のトリビアに「へぇ~」を連発しておりましたが……。

いや、ちょっと待て。一目置かれたのはプレーではなく、漫画みたいな戦術面だったのでは? さらに言うと一目置かれたのではなく、うっとうしがられたのではないか? と私はいたって冷静でした。「『キャプテン翼』の立花兄弟のようにワクワクするような夢の戦術には及びませんよ」と十代の正義感でキャプテンに忠告してあげたいくらい。

しかし1年後の同大会、増加したドライブの回転量と同じくらいスレてしまった私は、KさんとNちゃんのダブルスを応援しながら大きな声で(それでいてささやくような雰囲気)で対戦相手に聞こえるようにこう叫ぶのでした。

「相手、サーブうまいから慎重に!!」

ボトッ。