こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。2025年全日本卓球選手権大会が終わりました。混合ダブルスの決勝、グッとくるところが何度もありましたよね?!

混合ダブルスを組める卓人は選ばれしひと

混合ダブルスは難しい試合形式だとしみじみ思う。
なぜなら男女がペアを組み、心をひとつにして試合に挑まないといけないからだ。(※参照URL https://takkyuu-ladies.com/blog/doubles/

むかし、「話を聞かない男 地図が読めない女」という本が全世界でベストセラーとなった。本書が脳科学の観点から「男と女はそもそもわかり合えない」と結論づけてくれたことで、心が軽くなった人がどれほどいたことだろう。「ほれみたことか」「やっぱりね」と、たった一冊の本が男女の間に流れる深くて長い川の正体を明らかにしてくれたのだ。

ゆえに、高いレベルでペアを維持できている卓人をみると、うらやましくてしかたがない。スレ違いが大前提の二人が肩を並べて、目の前にいるスレ違いが大前提の二人と戦う心境はいかなるものか? いつか取材して我々夫婦ダブルスの再開のヒントにできればうれしい。

全日本卓球混合ダブルス決勝は木造・安藤組VS小野寺・枝廣組

余談はさておき、今年も全日本卓球選手権大会で混合ダブルスが催された。決勝は2月2日。例年より1日早い節分の日だった。ここまで勝ち上がったペアは、木造・安藤組と小野寺・枝廣組。安藤選手は今シーズン限りの引退を表明している。全日本ではこれが最後の試合となったのだ。

安藤選手のアスリート生活の集大成となった決勝戦を振り返ると……。

第一ゲーム、最後は木造選手が質の高いチキータを繰り出し、浮いてきたボールを安藤選手が得意のスマッシュで決めて11点のケリをつけた。これを目にした時、木造選手が安藤選手の花道を作ろうとしているのではないかと想像し、私の胸はザワついた。

この想像は私の悪いクセで、第2ゲームから試合の見え方にファンタジーが加わった。競り合っての9-9の場面、木造選手はゲーム序盤からのミスを引きずっているのか。バックハンドの強打がオーバーになったが、これも安藤選手に捧げる1本に見えた(いかんいかん、目をこすらねば)。続いて安藤選手もレシーブをミス。小野寺・枝廣組に2本とられてゲームカウントは1-1となった。

第三ゲームからは、安藤選手の掛け声のギアが上がった。その声に追従するように、木造選手も果敢に攻めた。木造選手は途中で大きな一本を逃すと、お腹をおさえて心を落ち着かせる場面も。やはり全日本選手権、しかも混合、しかも決勝という大舞台は特別な緊張があるのだろう。その後、木造・安藤組はミスが続き、1本追いつかれる前にタイムをとった。9-9と並んでしまったが、激しいラリー戦では安藤選手のひねり止めるような渾身のブロックが光った。最後は木造選手のサービスエースでゲームカウントは2-1と再びリードした。

運命を決める結果となった第4ゲームは、5-6の場面で小野寺・枝廣組がタイムアウトを取った。その直後に小野寺選手が流しのレシーブで逆を突いたが、木造選手が食らいついて返したのが印象的だった。その後も木造選手、安藤選手ともに気迫のこもったドライブ、スマッシュで得点を重ねスコアは10-8に。あと1本というところで、小野寺選手が渾身のチキータで巻き返しを図ったが、最後は安藤選手の意表を突いたフォア前ストップで11-9に。ゲームカウント3-1で木造・安藤組の優勝が決まった。安藤選手は全日本初優勝だった。

「現役の人生の中で、表彰台に上りたいというのが目標のひとつでもあったので、優勝できて本当にうれしいです」。安藤選手の言葉は素直だった。素直ゆえに涙を誘う重さがあった。その空気に感化されたのか、木造選手はインタビュー中、言葉に詰まる場面もあった。地元である愛知での優勝。さまざまな想いがこみ上げたのだろう。「地元愛知で優勝したいという思いが強かった。ミックスダブルスで安藤選手も引退で最後ですし、それで優勝できて心の底からうれしいです」と木造選手も喜びをあらわにした。引退をかけて勝負するパートナーとのダブルス。どれほどのプレッシャーがのしかかっただろう。

試合の途中に思わずお腹をおさえるほどの重圧。それを跳ね返す器量と気迫。どれをとっても男前過ぎる木造選手との混合ダブルス。安藤選手がうらやましい。そして、安藤選手もまた、最後まで力のこもったストレートへのスマッシュ。ファンに安藤選手らしいプレーを見せてくれてありがとうございます。髪をかき上げるような、その独特のサーブが大好きだった。その長く伸びた髪をほどいて、今度は女性としての人生を送ってほしい。