卓球は迂回してライフスタイルの話題へ。レディース世代の卓球選手の過去・現在・未来がわかるインタビューコンテンツ「今月の卓球レディース」。6月のゲストは松平志穂さんです。育児真っ最中の志穂さんが描くお子様の未来とは?

選手生活で培った体幹筋力のおかげで難産が安産に!

2024年9月末日、その女性は病室で20時間の長きにわたる陣痛に耐えていた。元卓球選手・松平志穂さん(29)だ。予定より1週間も早い出産日。それにもかかわらず、子供はお腹の中で大きく育ち、3600キロの身体と、この世に生まれ落ちようとする大きな大きなエネルギーで、志穂さんを攻め立てた。

その強烈なご挨拶は、新米母へ陣痛をお見舞いするにとどまらなかった。元卓球選手の古傷にとどめを刺したのだ。「腰とお尻がとにかく痛くて。古傷を思い出しました」。引退前に出場した全日本社会人選手権で右のアキレス腱を負傷。その影響で下半身も痛めるはめに。現役時代からケガに悩まされてきた志穂さんだが、まさか、この出産の場面でも過酷な競技生活で負ったケガに苦しめられるとは。

悶絶する志穂さん。その場にいた助産師さんがその異変に気づき、患部を必死にさすったが痛みに追いつかない。立ち合いにかけつけた元日野自動車キングフィッシャーズの夫・博己さんもさするはめになったが、卓球選手の繊細なボールタッチがあだとなったのか? 嵐の中の産婦をイラつかせるほどの力の弱さで、逆に志穂さんの痛みをあおってしまった。

想像を絶する痛みのうねりと、それに呼応する志穂さんのうなり。騒然の場は病室から分娩室へ。いよいよ出産というタイミングで医師は志穂さんにこう告げた。

「難産になる。途中で帝王切開に切り替えるかもしれません」。

KOKOMADEGAMANSHITANONI―――(;∀;)

なんと赤ちゃんの頭が大きく、身体が産道で曲がってしまったため、つかえてうまく出られない、お産に時間がかかる可能性が高いというのだ。20時間の陣痛で体力を消耗している志穂さんをねぎらっての医師の判断だった。

まな板の鯉の志穂さんはお産のプロに身を任せるしかすべはない。まずは普通分娩を試みる医師の言葉に従った。「お腹の右側に力を入れて!」「次は左!」。夫と助産師さんが見守るなか、志穂さんは最後の力をふりしぼった。そして、お腹の筋肉を見事に操り、大きな赤ちゃんを押し出したのだ。なんと分娩にかかった時間はたったの5分。

「スムーズなお産で良かった。選手生活で鍛えてきた体幹筋力を生かすことができました」。

選手時代に培った筋力と体力で難産を切り抜けた志穂さん。これにはベテランの助産師もたまげて、思わず志穂さんにこうたずねた。

「あの……何かスポーツされてますか?」

卓球道を歩ませるか否かは子供のセンス次第

こうして誕生した待望の娘・凛ちゃんは、現在8カ月。身長はすでに72㎝あり、下半身のしっかりした大きな女の子に成長中。都市伝説ではあるが、背は丁寧のように高く、下半身は樊振東にどっしりしている子がホカバでは活躍するという説もある(吹聴by西村)。凛ちゃんを卓球選手に育てる計画はあるかと志穂さんにたずねると……。

志穂さん「ボールタッチのセンスやボールに興味があれば、卓球をさせると思います」

西村「そのセンスって、いくつくらいでわかるもんなんですか?」 

志穂さん「おそらく2歳くらい。コートに立つようになればすぐにわかります」

西村「!!!!!」

なんと、そんなに早くわかるのか??? しかも卓球道に進むか否かはセンスでふるいにかけられるなんて!!! この言葉を聞いて私は身震いがした。私が5歳の頃、元国体選手の母にピンポンの相手をしてもらった記憶が蘇ったからだ。(ブログ「卓球愛を封印した5歳児」参照」)。幼くかよわい腕でラケットをふると、打ち上げた球がすべて天井につきささった。それを見た母が「素質ない」と言って失笑し、それ以降、相手をしてくれなくなった。もしかすると母はあの時、自分の娘が力づくのブロックで、相手が放ったループを天井にぶっ飛ばす40年後の未来が目に浮かんだのかもしれない。そんなことを想像すると、ああ、恐ろしいったら。

余談はさておき、凛ちゃんは、松平家の遺伝子を受け継いでいる。センスがないはずはない。卓球選手として育てることになれば、志穂さんは指導に携わるのか、伊藤美誠選手や福原愛選手のように、親子で二人三脚の卓球人生を歩むのかと尋ねると?

「ほかの人に任せようと思います。私の父は子供を1から指導することにかけてはプロなので、実家に夏休みなどの長期間預けられたらいいですね」。

志穂さんの実家は石川県七尾市で「松平卓球スクール」を営んでいる。松平家の4兄弟が幼い頃に実力を蓄えた場所だ。ここで卓球の指導・能登の美味しい食事・大自然とのふれあいなどを実家の両親にお願いできればという。これには夫の博己さんも大賛成。おじいちゃんおばあちゃんも孫と触れ合う時間ができるし、両家がWin Winになれる計画だ。

「娘には将来のために何かひとつ武器を持ってほしい。卓球が武器になったらいいですね」。

テレビをつけると、志穂さんの兄・松平賢二選手が奮闘していた。日本から遠く離れたカタールで、36歳という年齢で、卓球を武器に世界と戦っていたのだ。

センスあふれるプレー、ガッツあふれるプレー、そして、いくつになっても戦えることを証明する卓球ファンに勇気と希望を与えてくれるプレー。そんな松平家のDNAを受け継いだ卓球選手に凛ちゃんにもなってほしい。

そのためにも、志穂さんこれから子育て頑張ってください。
もちろん、おじいちゃんも(^_-)-☆

松平志穂
石川県七尾市出身、松平4兄妹の長女。2013年全日本選手権ジュニアの部 優勝、ITTFオーストラリアオープン アンダー21歳以下優勝、世界選手権パリ大会 シングルベスト32。現在は卓球コーチとして兄・健太さんが営む「卓球ROOM MK」で指導に携わる。レディースのレッスン生募集中。