こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は高校時代の双子の先輩の回顧録。異質ラバーコンビでダブルスが強かった!

「卓球 双子」誰を思い浮かべるか? 

今から30年前、私が所属する卓球部にスポーツ少年漫画の登場人物のような二人の先輩がおりました。一卵性双生児のS先輩です。「卓球 双子」と脳内検索すると、松下兄弟ではなくS兄弟が一番にあがる。どれほど濃ゆい印象を私に残したかおわかりいただけますよね。見た目だけでなく声もそっくり。二人が同じことを同じタイミングでしゃべるとカラオケ喫茶のマイクを通したような不自然なエコーが起こりました。

「見分けるポイントがわからない……」。私たち1年生はどちらに話しかける時も「S先輩」と無難に名字で呼びます。すると二人が「なにー?」と同時に振り返るからややこしい。S先輩の一人から「下の名前で呼んでくれていいよ!」と何度も強めに言われましたが苦笑いでスルーしました。2、3年の先輩方は「T~」「N~」と下の名前で呼んでいたので、いつか見分けられる時がくるのだろうなと、時が解決してくれるのを静かに待っておりました。

卓球部員にしかわからない双子の見分けポイント

入部から4ヵ月が過ぎた頃、私の心はザワつき始めました。同じ一年生部員のKさんとNちゃんがS先輩のことを「T先輩」「N先輩」と下の名前で呼び始めたからです。私が「S先輩」と名字で呼んでいると「まだ見分けついてないの~」とKさんに笑われる始末。私の顔認識機能をバカにしたKさんの態度にムッとしていると、反省したのかKさんは私に見分けるポイントをこっそりと教えてくれました。

Kさん「ボールを相手に渡すとき、ラケットにポーンと当てて飛ばすやろ、その時のS先輩の所作をよく観察して。N先輩の方がテイクバック少し大きくてタメも長いから 」。

私「そうなの!!!!!(目から鱗)」。

Kさんをベンチコーチに指名したくなるような起死回生のアドバイス。私はこの助言を聞いた瞬間、人見知りが完治しました(卓球部内限定)。「これで堂々とS先輩の目を見て話すことができる」。そんな自信が沸き起こったからです。その日の練習終わり、私はS先輩のそれぞれに試合を挑みました。勝負が目的ではありません。TかNか白黒はっきりさせるためです。

この試合が終わったら二人の顔を見て「T先輩! N先輩!」と体育館に響き渡る声で叫んでやろう。そして、それはS先輩に対して私の心が大きく開かれる合図。よく見たら二人ともイケメン(同じ顔)。名前を呼んで話しかけることができれば仲良くなれる。そうすれば1/2の確率で私のことを気に入ってくれるかも。人生初の彼氏ができるチャンス!!!!!

15分後。大きく膨らんだ私の少女漫画的妄想は蚊に刺されたくらいの小さな刺激でパチンと割れてしぼみました。テイクバックが少し大きい? タメが長い? 何なんでしょうね。私にはそのわずかな差がわかりませんでした。「これで判別できる!」と喜び勇んで挑んだ試合なのに、終わったら何の収穫もない。それどころか、S先輩がボールを渡す瞬間に集中するあまり、サーブ権がどちらか忘れまくってS先輩に「集中しろよ!」と怒鳴られました。2/2の確率で嫌われたんじゃないか(涙)。

ガッカリなのはそれだけではありません。卓球は繊細なスポーツなのに、Kさんにはある感覚が自分にはなかった。「私には卓球のセンスがそなわっていない」と自分を責めて退部したくなりました。練習が終わっても卓球台を片付けずに体育館の隅で三角座り。必要以上に落ち込んでいるとキャプテンに呼び出されました。

「西村っ、ちょー来い!!!」踵を返し体育館の外へ出ていくキャプテン。私も恐る恐る後に続きました。S先輩に試合を申し込んでおきながら、集中力を欠いた試合をしてしまった自分。恋の妄想に浸ってしまったおぼこ。そのことを叱咤されるのではないか。キャプテンの背中に殺気を感じながらついていくと、キャプテンは卓球部のロッカ―の前で振り返りました。思わず身を縮こませると……。

キャプテン「おまえ! まだSのことどっちがどっちか見分けついてないやろ」

私「はい……」

キャプテン「おまえはアホか。ラバーの色見たらわかるやろうがい!!!!!」

私「えっ????? えええええええーーーーーーーー」

Anaga-attara-hairitai.

いや~お恥ずかしい。そうなんですよ。用具に最大の見分けポイントが存在したのです。S先輩のラバーは二人ともウラ×イボの組み合わせだったのですが、T先輩はフォアが赤、バックが黒。N先輩はフォアが黒、バックが赤だったのです。色がテレコ。卓球部の人間にしたらこれ以上ないヒントですよね。不肖の私はそれに気づかなかったのです。言い訳しますと、入部当初、先輩方の練習に一年生はほとんど寄せてもらえなかった。さらに私は高校スタートだったので、異質ラバーの先輩と打ち合えるレベルではなかった。さらにさらに、S先輩はラケットをくるくる回すクセと戦術があった(涙)。

「Kさん許すまじ(恨)……」。Kさんはキャプテンに怒られている私を体育館から眺めて大爆笑しておりました。と、ここまで双子の先輩を見分けることができなかった話が長引きました。卓球をやっておられる方ならこの話の続き、察しがつきますよね。

そう同じ顔の二人が存在することに脅威はありません。しかし、この二人がダブルスを組んだら? 二人ともバック面が異質だったら? 交互でラバーの色が違ったら? 世にも恐ろしい化学反応が起きる!!!!! 仰天のラバーの色テレコ戦術話は後半で!

つづく