こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は卓球女子からテニス女子に変身できなかった残念な人のお話。大学デビューは難しいですね。

硬派卓球少女から軟派テニス女子へ劇的変身

20年前のIN JAPAN。大学生の本分は学問ではなくスキーとテニスでした。夏は全身FILA尽くしでコートを駆け巡り、冬は足元ハの字でゲレンデにZを描く。これがナウいヤングの風物詩。いや、マジな話だから。

私も集団催眠にかかって、コンビニの早朝バイトで稼いだ金をFILAにつっこんでましたよ。だって、デザインが可愛いんだから。水色のタータンチェックのワンピース。テニス以外の場所でも、そうそうBBQコンパにも着て行ったな~。ロングネックレスの代わりに、でっかいラケットケースを肩から斜め掛けして。

あの当時は、テニスしてるってことがファッションのひとつだったから、ラケットケースが牛タンひっくり返すたびにひじに当たっても、振り返るたびに友達のみぞおちに突き刺さっても、外そうなんて思いもしなかった。だって、おしゃれは我慢だもの。

そこまでして「テニスやってる女子です」を主張したかった理由はみなさんご存じですよね?

So,私は高校時代卓球部だったのです。

卓球が大好きな女子だったけど、元卓球部員という存在は否定したかった。卓球部=根暗と呼ばれた時代だったから。当時、クラスのみんなは口にしないけど心の中では卓球部を体育会と認めていなかったんじゃないかな。いや、口にしたヤツいたな!!! 

学校帰り、自転車ですれ違いざまに耳元で「卓・球・部(クスッ)」と失笑して去って行ったフテーヤロー。なにが腹立つって、そいつはThat‘s帰宅部。1ミリも脚を動かしてないヤツだけにはバカにされたくなかった(涙)。

そんなこんなで、大学からは卓球部の過去を葬り去り、丘テニサーをきどっておりました。他大学との合同サークルで。自分の学校の体育会でないところが私のなめ腐ったスポーツマインド。ゴールをモテに設定していましたから。完全に外しましたが。外しまくったがゆえに、悟りを開いて途中からは丘を下りオムニコートへ。真剣にテニスと向き合い始めました。

上手い人にも習ったし、暇さえあれば壁打ちしたし、当時流行りのカーボンラケットも買ったし。なのに真剣にやればやるほど、元卓球部のヒントを随所にバラ巻いてしまうんだな~。前陣でツッツキばっかりのレディースあるあるプレー、いや失礼、前衛でボレーばっかりの、はて何プレーだ??? テニサーはこの前に張り付いてのプレーを嫌がってくれるから、点数が入る入る。軟派ヒンギスをあきらめ硬派きみ子になった私は、卓球で磨いたツッツキを武器に勝負師モードでテニスの試合に出るようになりました。

出会い目的の参加者が100%と見積もられる大学の交流大会に出場し、ねちっこいツッツキで浮ついた女子大生に喝を入れる。「あんた高いおカネをお母ちゃんに払わせといて、勉強せんと何チャラチャラテニスしてんねん」と誰かの親心が私に降りれば降りるほど回転がかかる。数か月前のチャラい自分を優しく丁寧に棚にあげて。

だけど、相手も黙っちゃいない。

ゲーム終了後、開き直った女子大生に「ところで……学生の頃は卓球をやられてたんですか?」という鋭いチキータをおみまいされました。私は弱みを握られていたことに動揺し、「えっ、えっ……」と詰まりまくり。かろうじて感嘆詞のロビングをあげたのですが、「だって、明らかにテニスのプレーじゃないですよね。卓球ですよね?」と声を荒げてスマッシュを食らわされました。

大勢の男子がいる場所で……。

パッコーン!!!!!

出会いのチャンスボールは誰のため?

すべてが終わった帰りのバスに、その女子大生と乗り合わせてしまいました。卓球崩れの私に負けて、半泣き状態の彼女の隣には、友達以上恋人未満の男子大学生が座っていました。その男子は「あんなのはテニスじゃないから、卓球だから、負けて落ち込むことないって」と必死に彼女を慰めておりました。

田舎道をノンストップで走るローカルバスの40分。

「あれは卓球だから!」と熱弁を繰り返すワンチャン狙いの男子のマントラに、私のピュアなハートはダメージを受け続けました。HPは完全にマイナス。

試合には勝利しても、アフターは敗北といったところでしょうか。女子大生にも男子大生にも“卓球いじり”というチャンスボールを与えてしまったから。MPも発動ナラズ。

しかも、これがきっかけで二人がつき合うことになっていたら……。私は救いようのない鏡の中のマリオネット!!!

自分のためではなく、人のために踊ったということになりますね。

長い長~い40分。バスから降りると、そこは何にもない平坦な田園地。ほっとできる私の地元。目の前に広がる茜色の夕焼けがその日は一段とまぶしくて、なんだか涙が流れてきました。