こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。卓球から引退するつもりだったけど、心の奥底では未練の炎がくすぶっていた……?! 珍しくまじめなブログです。

私は高校から卓球を始めました。初めて卓球部の練習に参加した日は、球拾いしかできない。そんな自分が情けなかった。中学時代卓球部だった同級生を見て、こんなに上手い人たちとまともに練習できるのはいつなんだろうと途方に暮れた記憶があります。

そもそも私が卓球部に入ったきっかけは諸説ありますが、背中を押してくれたのは同級生のNちゃんとKさんです。卓球部に1回だけ、たった1回だけ、only one time 見学に行っただけなのに、つけ回すように勧誘するってどういうことですかね???

学校の渡り廊下でNちゃんとKさんにすれ違うたびに

「あーっ!!!」と天然記念物を発見したかのように指をさされ、駆け寄ってきて「頼むから卓球部入って~」と「人数が少ないから団体戦出られへん~」と、休憩時間をいっぱい使って強引に誘われるのです。そして「西村さんは運動神経いいからすぐに上達するって~」とよいしょ。悪い気はしません。そんなに褒めるんだったら~っ、と鼻の下をのばして入部したけど、全然うてるようにならんじゃないっ(涙)。

卓球のフォームを身に着けるまでこんなに時間がかかるなんて知りませんでした。そういうことは卓球の教科書の1ページ目に書いておいてほしかった。卓球は「鳴くまで待とうホトトギス」と「鳴かせてみせようホトトギス」のWの精神がないと続きませんよマジで。

おまけに弱小校の卓球部だったので指導者もいない。云十年前なのでYouTuberもいない。私はどうやって技術を身に着けたかというと、Nちゃんの卓球を完コピしたんです。Nちゃんは中学時代卓球部のキャプテン。周りの部員より頭ふたつ抜けていて、強豪校への推薦の話もあったといいます。なのになぜかこんな弱小の公立高校を選び、部員集めに苦労するハメに。

公式戦で初めてNちゃんが他校の生徒と試合をするのを見た時、Nちゃんの強さに驚きました。奇をてらったことは一切しない、体が小さくてパワーがない、だけど安定感抜群の卓球。まだ1年生なのに、体の大きさが倍ほど違う強豪校の選手から淡々と点を奪います。

「すげーっ」とNちゃんを見ていると、隣にいたKさんがささやきました。

「基本に忠実な卓球をする人には誰も勝てない」と。

戦型のパイオニア・ペン裏ロビングマンのKさんがそんなことを言うのかと驚きました。というか、Kさんがまともなことを言ったのはこれが最初で最後です。

私はKさんではなく、Nちゃんをお手本にして卓球に励みました。

「どうしたらラリーが続くようになるだろう」。その悩みが解決したのは卓球を始めて3ヵ月後。

「どうしたら公式戦で1勝できるだろう」。その悩みが解決したのは卓球を始めて6ヵ月後。

「どうしたらKさんに勝てるだろう」。その悩みが解決したのは卓球を始めて8ヵ月後。

そして、「どうしたらNちゃんに勝てるだろう」。

そんなことは一度も考えませんでした。私はNちゃんの二番煎じ。負けて当たり前です。部活のゲーム練習でも一度も勝ったことはありません。

弱小卓球部の底辺を歩む私でしたが、日を追うごとに成長はしていました。卓球を始めて1年、ついにK頂の頂じゃない方の選手に1ゲームとれるようになりました。自信がついた私はNちゃんと堂々と練習ができるように、Nちゃんとダブルスを組んでも自分の意見を言えるようになりました。

だけどNちゃんに勝てる気はしない。勝とうなんて考えもしない日々が2年と3ヵ月過ぎたある日、それは引退当日でした。

今日が部活最後の日。何か思い残すことはないだろうか……と考えると、よく考えると、よくよく考えると、私はNちゃんに自分から試合を申し込んだことがありませんでした。

勝てなくて当たり前、試合してって言うこと自体が恥ずかしい。そんなチキンハートでNちゃんの二番煎じを受け入れてきた自分。でも、今日申し込まなかったら一生後悔するだろうなと思いました。

なぜって、なぜって、そう。

私はずっとNちゃんの背中を追いかけてきたのです。あと少しで手が届くのか、それともすでに手が届いているのか、それは試合をしてみないとわかりません。

気づけば私はNちゃんに「試合してくれる?」と頼んでいました。最後の日に心の声が自然と口から出たのです。Nちゃんは快く引き受けてくれました。

後にも先にもあれだけ全集中で挑んだ試合はありません。Nちゃんとの最初で最後の申し込み試合。Nちゃんに教えてもらったバックサーブ、Nちゃんに教えてもらったツッツキ、Nちゃんに教えてもらったショート、それらすべてを本家にぶつけました。青春の1ページというものが存在するならば、大きく取り上げたい部活生活のハイライト。ゲームオールになり「いけるんじゃないの?」という期待感で鼻がふくらみましたが……。

負けました(涙)。

最終ゲームからのNちゃんのフォアスマッシュが半端なかった。

パワーはなくても気迫が重みとなって飛んでくる。そのボールを受けて気づいたのです。頑張っていたのは自分だけじゃなかったんだなと。

「勝てるはずない」なんて言いながら、心の底ではNちゃんに勝ちたくて2年と3ヵ月一生懸命卓球をしていた私。

「のみこみが早い」と褒めてくれながら、私にだけは負けるかという気持ちで2年と3ヵ月卓球をしていたNちゃん。

私たちは最高の友達であり、実は最高のライバルだったのです。

大好きだった卓球ですが、このひと試合で心の整理がつきました。心から引退できました。そして、大学に入ってからはラケットを握りませんでした。

なのに、なのに、なんなんでしょうね?

云十年後、近所の卓球場の窓に貼られた「子供の卓球教室生徒募集」のポスターを見た時に、Kさんの一言が降りてきたんですよ。

「基本に忠実な卓球をする人には誰も勝てない」。

まだ保育園の我が子が10年後、高校生になって、もし卓球部に入ったら、基本ができてなかったら苦労するだろうな……という思いが頭にポッカリ浮かびました。そして気づけば体験の申し込みをしていました。

冷静に考えると、先回りし過ぎの思考。そもそも卓球部を選択するかどうかもわからないし、それよりもっと心配しなきゃなんないことが山ほどあるにもかかわらず。

なにゆえ……まぁ、卓球に対する未練があったんでしょうね。

最後まで勝ちを譲ってくれなかったNちゃんと、珍しくまともなことを発言したKさんのせいですよ。