卓球の掛け声戦術「蝶のように舞い蜂のように刺す」

こちらは『卓球レディース』運営者の西村が、心に浮かぶ取り留めもないことを、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回のテーマは「卓球の掛け声」。どういう言葉を発するかセンスが問われます!

史上最年少の13歳で世界選手権男子シングルスのベスト8に入った張本智和選手。マスコミが注目したのはその功績と「チョレイ」という雄叫びでした。スポーツ解説者の間で物議を醸し、ママ友の座談会でも「あんなに大きな声を出す必要があるのですか?」と訊かれたことがあります。私は「イエス」と即答しました。卓球に限らずスポーツ少年は元気に声を出してなんぼ。高校野球の勝利者インタビューでも「仲間の応援があったから勝てました!」がお手本のコメントですものね。応援合戦も選手を鼓舞する戦術のひとつ。それに対して「うるさい」と文句をつける人はいないでしょう。

私も声をはって自分を鼓舞しながらプレーしていた時代があります。今から30年ほど前、高校の卓球部にいた頃、掛け声戦術が私の半径5キロ以内で猛威を振るっていました。一番警戒しなければならない掛け声の魔術師は学生ではなく顧問のU先生でした。私が入部した年から卓球部の顧問となったU先生は25歳のまじめな青年。若さと情熱で練習に毎日参加し部員とともに腕を磨かれました。私とU先生は同時期に卓球を始めた良きライバル。私も卓球にハマりましたが、U先生は卓球のマニアックマンホールに体ごとハマりました。職員室に私を呼び出しては、自ら考案した改造ラケットを見せびらかすのです。「西村~、割り箸を削ってグリップに添えたら持ちやすくなったゾ~」。デスクの上は試作に使った割り箸の墓場になっていました。先生は職員室で何時間作業をしていたのでしょうか。周りの先生の冷ややかな視線が忘れられません。

そんなある日、U先生から「西村~、試合しよ~」とお声がかかりました。U先生からの試合のお誘いは、私を使って新しい用具or思いついた戦術を試したい時。私は慎重に挑むことにしました。ジャンケンに負けてサービスはU先生から。すると先生は天井めがけトスを高く上げました。「ははーん。投げ上げサーブを試す気か!(モノローグ)」私はレシーブのタイミングに集中しましたが、安直な判断が足をすくいました。U先生はボールを擦る瞬間「一球入魂!!!」と絶叫しました。マンガでしか存在を知らない四字熟語。私は動揺してレシーブを落としてしまいました。なんと先生は投げ上げサーブではなく、掛け声でこちらのペースを崩す戦法だったのです。

「イケる!」と思ったU先生はそこからサービスのたびに「一球入魂!!!」と叫びました。そのクスッと笑える卑怯な掛け声が、私の“やる気スイッチ”を押しました。「レシーブ集中!!!」私はヒステリックに声をあげ「なにがなんでもU先生のサーブをとったろうやないの」と全神経を研ぎ澄ませて返球しました。「一球入魂」が効かなくなったU先生は3ゲーム目の始まりに戦術を転換しました。そして高々とトスをあげ「蝶のように舞い~蜂のように刺す!!!」と抑揚をつけた声で唱えながらボールを擦りました。不意をつかれた私はこけそうになりました。もちろんレシーブミス。私とU先生の試合は競ることが多いのですが、この時ばかりは大量得点を奪われました。「このままでは終われない……」。私も「さーっ!!!」「よっしゃラッキー!!!」などの掛け声で対抗しながら、頭の中で強そうな四字熟語を必死で探しました。「一騎当千」「弱肉強食」……「夜露死苦」記憶の引き出しを片っ端から開けましたが武器になる言葉は思い浮かびません。そしてU先生のマッチポイント。運よく私がサーブ権を握っていました。「ここから巻き返す」。私はここまで出すことのなかったとっておきのサービスを出そうとしました。そう。私は最後まで大富豪で言うところの“2”のカード(サービス)を残していたのです。私は少し間をとって、チャンスありとばかりにトスを上げました。その瞬間、U先生が私を睨みつけ間髪入れずに「獲物を狙う鷹の眼ェ~!!!」と絶叫しました。「えっ、何、何?」。先生の叫び声に気をとられた私は、大鷹に一瞬にしてさらわれる哀れな小動物のように、事態がつかめぬまま、あっけなくサーブミス。U先生はラストのために斬鉄剣級の破壊力を持つ掛け声をとっていたのです。そう、U先生の手元にはジョーカーが残っていた。見事な掛け声戦術に完敗です。

それからも私はたびたびU先生の掛け声戦術に涙を飲みましたが、鍛えられたおかげで対戦相手の掛け声には動揺しなくなりました。U先生に感謝です。レディースの皆さん、U先生の掛け声戦術を卓球ノートにしたためておいて損はないですよ!

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