レディース世代なら一度は考えたことがある硬式からラージへの転向。その一歩を踏み出せない理由は、ボールに回転がかからない、スピードが出ないなど、その謎に満ちたボールの性質から。トライすぐさまエラーでくじける前に、知っておきたい5つの心得をラージボールコーチの香取里江子さんに聞きました。

ラージはオレンジ色のボールに愛着がある世代を虜にできるか?

鮮烈なオレンジ×ブルー。ドラゴンボールの孫悟空のコスチュームを見ていると思い出すのです。懐かしい我が高校の格技場の風景を。そこには真新しい青色の卓球台が並び、その上でオレンジ色のボールが弾んでいた。卓球といえば白球しか知らない世代も多いと思いますが、実はボールのカラーは白→オレンジ→白と卵サンドイッチ的な変遷を遂げ、私はこの具(黄身)の時代に青春卓球を謳歌しました。

だからでしょうか。オレンジ色のボールを見ると懐かしさとRomanticが止まらない。今はラージボールが普及し、硬式中の私の足元にもひと回り大きくなったオレンジボールが転がってくることがあるのですが、実際に打ってみるとStopが止まらない。。。

いや、なんなのこれ、見た目は懐かしいけれど、硬式のボールとは、まったく異なる生命体じゃん。私の顔を見るたびに「一緒にラージしようよ♪」と気軽に誘ってくれるレディース仲間もいるけど、待て待て。硬式からラージへ簡単に移行できるものなの? そもそも硬式とラージは両立できるの? なんてハテナマークが私の頭につきささりまくり。

そこで年代別の全国大会で優勝経験のある香取里江子さんに私の疑問を投げかけました。やはり、硬式中心の人がラージを始めると、ボール感覚の違いに初めは心が折れる人も多いのだとか。里江子さん、ラージ初心者にくじけないで続けられるアドバイスをお願いします!

まずは硬式とラージの違いをさらりと

ボールのサイズが当然ラージ

硬式球は40ミリなのに対し、ラージボールは44ミリ。一割増で大きいサイズになっています。

ラージボール
使用できるラバーは表ソフトのみ

ルールで表ソフトのラバーしか使用できません。ラージ用のラバーも出ているので、自分の戦型に合ったものを選んで。

ネットの高さが硬式よりも高い

硬式のネットの高さは15.25センチですが、ラージボールは17.25センチと2センチ高く設定されています。

ネット

くじける前に知っておきたい5つのこと

❶ ボールが飛んでこない

ボールが台にバウンドした後に失速するので、硬式の感覚でラケットを振ると、空ぶりすることも。ところが、すべてのボールが止まるわけではなく、バウンド後に伸びてくるボールもあります。ボールが相手のラケットに当たる、ネットを越える、バウンドするなどのポイントでしっかりとボールを見極めましょう。

❷ ツッツキが浮く

硬式と同じようにボールの下を切るツッツキをしてしまうと、ボールが浮いてオーバーに。ボールの下をすくわず、斜め上から体でおさえるようにツッツキしましょう。

➌ 下回転サービスが難しい 

ボールにラケットを薄くあてて切る下回転サービスは、ボールがネットを越えません。第一バウンドの位置を決めて、ラケットを厚めにあてましょう。横回転のサービスは問題ありません。

➍ パワー勝負は疲れるだけ

ラージは風船を打つような感覚なので、力むとチャンスボールもミスにつながります。そもそもボールがバウンド後に失速するので、パワフルな卓球はラージに有効ではありません。力で入れるのではなく、フォームを整えて打ちましょう。

➎ スピードで攻めるとミスにつながる

スピードで攻めても、相手が台との距離をとっていれば簡単に返されます。スピードで攻めるよりも、コースをつく方が賢明。ラージはネットインやエッジボールも多いので、勢い任せではなく冷静に対応できるようにしておきましょう。

硬式とラージボールは両立できるか?

異なるラケット競技は同時にやらない方がいいと聞きます。例えば卓球とテニス。テニスをやった後に、卓球をやると大振りになってフォームが崩れるんですよね。そういった心配は硬式とラージにあるか香取さんにたずねると……。

硬式とラージでは、フォームは変わりません。打球点が違うだけです。頭を切り替えれば両立は可能。初めはラージベテランのおじいちゃん、おばあちゃんに負けて悔しい思いをするかもしれませんが、くじけないで。慣れるまでは3年かかると思って気長に続けてください」と心強いお言葉。

実は、香取さんが暮らす栃木県はレディースのラージ人口が多く、硬式とラージの試合が同じ会場で行われると、1:4の割合でラージの台が席巻するのだとか。いやはや、栃木はとちおとめ(苺)とラージボールで有名な街だったんですね。そんな栃木で生まれ育った香取さんの言うことなら間違いない。みなさんもくじけないで、ラージボールにチャレンジしてください(^_-)-☆

香取里江子さん

Column/ラージボールの常識は変わりつつある

ラージボールはお年寄りでも気軽にラリーが楽しめるスポーツ。これまではシニア世代が競技人口の多くを占めていました。ところが近年のラージ人気により、若い世代の競技者が急増。従来は「ラージには難しく不向きなテクニック」と言われていたチキータも上級者の大会で見られるようになってきました。さらに、ポイント5で「スピード勝負は有効ではない」と伝えましたが、若い世代は容赦なくスピードで攻めてくるのだとか。数年後にはラージボールの常識がひっくり返っているかもしれませんね。

監修 香取里江子

      かとり りえこ

RKstudio卓球場 代表

プロフィール

1977年生まれ。栃木県出身。大正大学卒業後は栃木銀行の実業団で活躍。2020年、鹿沼市に「RKstudio卓球場」をオープン。レディースを中心にラージボールの指導を行っている。主な戦績は、2016 年全国ラージボール大会 一般混合ダブルス優勝  一般女子シングルス優勝。2017 年全国ラージボール大会 女子シングルス 40 優勝。2019 年 全日本ラージボール卓球選手権 女子シングルス 40 優勝。

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