こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は身内とのダブルスに身内がベンチに入ったらどうなるのか? 失敗例をお話します!

子供と一緒にフォアラリーをするのが夢でした。その夢を叶えるべく卓球教室に通わせること数年。ついにDream come true。うれしい!たのしい!大好き! 親子で卓球が楽しめると喜んでいたのに、もしやひとりよがり??? 子供を練習に誘うとイヤイヤなんですよ。ラリー初めのサーブすら入れる気なし。やる気ゼロの態度で母が営む喫茶店の皿洗いをしていたJK時代の自分と重なります。小学生にもなると親との練習は接待扱いになるのでしょうか。

このままでは夢が一瞬で去ってしまう。私は子供との思い出作りのために慌てて親子ダブルスにエントリーしました。子供は「出たい」とも「出たくない」とも言わず、私の圧に負けて渋々OK。こんな感じなら来年はダブルスを組んでくれないだろうなぁ。最初で最後になるかもしれない大切な試合。出場したら一瞬を千秒に生きよう、一本入るたびに笑顔でハイタッチしよう、お揃いのウエアを着よう、ハイビジョンで録画しよう!!!!!

ところが試合当日。私は子供そっちのけで体育館を5周。完全に勝負師のスイッチが入っておりました。勝ち負けなんて関係なし。思い出作りというゴールを目指して出場したはずなのに、ラケットを持つと人格が変わるなんて恐ろしいですね。試合が始まると笑顔でハイタッチどころではありません。「下がるな!!!!!」と子供を叱咤。試合に集中し過ぎて子供との触れ合いを噛みしめることなく一瞬で1ゲームを落としました(涙)。

出鼻をくじかれた私は心を落ち着かせながらコートの端へ。水筒を取ってお茶を飲もうとしたら……。

「何してんねん!!!!!」という不意を突く檄が飛んできました。

一瞬、ビクッとして振り返ると、目の前に夫が立っておりました。肩をいからせ、両腕を組んで、仁王立ちで。その風格たるや。高校時代に公式戦の会場で見た強豪校の名将そのもの。何十人、何百人、何千人ものインハイ王者、国体選手、オリンピック選手を育ててきましたと言わんばかりのオーラ。圧倒されていると、卓球を始めて2年とは思えない口ぶりでダメ出しをしてきました。

夫「なんであんなに下回転かかったボールをはらうねん!!!!!」

その怒号を聞いた瞬間、自分の居場所がパラレルワールドであることに気づきました。1時間前、シングルスで夫が思いっきり下回転のかかったボールをはらうというネットミスを目の当たりにしたからです。その時、心の中で「なんであんなに下回転かかったボールをはらうねん!!!!!」とつぶやいた。それがこの平行世界で今起こっている。なぜか当事者は入れ替わっているけれども。宇宙の神秘に驚いていると、夫はさらなる宇宙からのメッセージを伝えてきました。

夫「ここから見てるとお前のミスがよくわかる」。

私「!!!!!」

なんという大いなる存在なのでしょう。私ははからずも神っぽい人と結婚したみたいです。そんなお方に毎日ゴミ出しをさせていたなんて、毎週駅までの迎えを頼んでいたなんて、毎月息ができるギリギリの小遣いを渡していたなんて!!!!!

ありがたい天啓を右から左に受け流していると、夫が子供にダメ出しを始めました。子供も受け流すかなと思いきや、素直にうんうんと聞いている。ピュアだなぁ。

神をも恐れぬおばちゃんに成り下がった私と、神に従順な子供はコートに戻りゲーム再開。夫は私たちのプレーを片手スマホで撮影しています。「大事な試合だから録画してな」と何度も頼んだのに、ムービーを忘れ、三脚を忘れ。それでいて口を出すことは忘れない。なんなんでしょうね。ボールを拾いに行くたび、夫の姿が目に入ると顔に「三脚忘れた人」と書いてありました。

すべての試合が終わり、結局、私たち親子は1勝しかできませんでした。悔しいけど、来年はもうないだろうなぁと肩を落とし、受付の方に「ありがとうございました」と挨拶しながらコートを去ろうとしました。すると子供が元気な声で「ありがとうございました。来年もまた来ます!」と言いました。

えっ、えっ、今なんてーーーーーー(嬉々)?????

その一瞬は千秒に感じました。子供との思い出作りにワンモアチャンスが与えられた。こうなったらこの1年でブチ切れの下でもはらえるフリックを身に付けけてやる。来年は体育館を10周してやる。来年はムービーと三脚を自分で用意してやる!!!!!

こんな幸せを噛みしめられるのは子供のおかげ、さらには夫が結婚してくれたおかげ。

だけど夫よ、ベンチには入らんといてや。