世界卓球2026 ラーネフールに恋して
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こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。先日閉幕した世界卓球2026ロンドン100周年大会。その中で西村が熱狂したスウェーデン×中国戦を綴ります。初中級のおばちゃんから見た世界卓球の世界とは?
4月末にテレビを買い替えた。幅の狭いリビングの壁にドカンと立つ50インチよ。亀山モデルのDNAを受け継ぐシャープ製画面の美しさよ。ああ、なんて、奥行きのある立体感なのでしょう。これで世界卓球を観たら選手たちがグッと迫って見えるに違いない。世界卓球が始まるまでは、このテレビで卓球を観てやるものか。そんな誓いを守っていたのに、大会開幕と同時に風邪ひくって、なんでやねん。
私はお布団の敷いてある部屋の小さなテレビで観戦を余儀なくされた。そのかわり、画面にかぶりつきで。子供の頃、お母ちゃんから「目が悪くなる。テレビから離れなさい」と何度叱られたことか。こちとらすでにおばちゃんで老眼で副鼻腔炎で、やばせばびです。親の注意を受けない親の立場を手に入れているから、テレビから30センチほど離れた至近距離で世界卓球を見てやったぜい。迫りくる選手の勇姿にキャッキャと手をたたきながら。
その中でも私の心に一番響いた選手はというと……。日本選手じゃないのよ。意外かもだけどスウェーデンのラーネフール選手。いやもう、彼の魅力を書き出したら筆が止まらなくなるかも。試合を観るのはこれが初めてなのにね。てへっ。いつも世界卓球は日本戦をみるのが精いっぱい。だけど、今年は血沸き肉躍るGWを家で過ごしたから気になる試合はリーグ戦であっても片っ端から観てやった。男子グループ1、スウェ―デン×中国も。いや、モーレゴードいるけど、中国が勝つでしょうってテンションで。
案の定、1番では絶対王者の王楚欽が猛威をふるった。ラケットさえ折れなければ彼は間違いなく強い。卓球ジャーナリストとしての読みが当たったわ。次に登場するのは林詩棟。ここもカタい、2月のお餅ほどカタい2番手。対戦相手はラーネフールとな。えっ、ラーネフールって誰やねん? 失礼ながら、私は世界ランキング70位の彼を知らなかった。すぐにググってお写真を拝見すると、おお、若い頃のヒュージャックマン似のイケメンじゃない。これは期待できる。期待できるって何をやねん。と、自分にツッコミを入れて、ニヤニヤして、背筋を正して、コートに現れた紳士に目を向けると……。

BETSUJIN( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚) Brahms?
「娘さん よく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ~♪」。ズコー。私の頭の中で山男の歌が子気味良く流れた。懐かしい、懐かし過ぎる。脳のかなり隅っこの方の引き出しから出てきた歌謡曲。そういえば学生時代、私が信州でゲレンデ美女の錯覚をふりまいていた頃、宿泊先のロッヂにはこういった風貌の居候(いそうろう)が必ずいた。アゴから口にかけてたっぷりとひげをたくわえた、まさしく山男。だけどここは信州ではなくロンドン。雪ではなく雨が降ることで有名な街。山頂ではこのルックスがモテの正解かもしれないけど、私は騙されないよ。惚れないよ。おほん。私は軽く咳払いしてテレビの前で崩れた体制を整えた。再び選手たちの一挙手一投足を凝視するために。
王楚欽が作った中国優勢の空気が会場を包むなか、ラーネフール×林詩棟の第一ゲームは始まった。始まったとたん、気になることが泉のようにあふれ出した。ひとつはラーネフール氏の後ろ髪。その一部がハネているじゃないか。ここは世界卓球。卓球を極めし者なら誰でも憧れる大舞台。なのに寝グセって。。。すると、カメラがラーネフール氏を真横からとらえた。レシーブの構えが卓球入門書の1ページに出てきそうなほど美しくパーフェクト。ゆえに、髪の一部がその完璧なシルエットからハミ出しているのが残念で、せつなくて、その理由を審判に問うてほしくなった。「髪を直す余裕がないくらいの心境」or「髪を直す必要もないくらいの余裕」。どっちなんだい、と。私は寝起きのままの姿でツッコんだ。爆発した髪を手でおさえながら。まぁ、お互い様ということで、卓球の本題に入ろう。
気になったこと、ふたつ目はラーネフール氏の動きだ。卓球未経験の顧問が面倒を見る卓球部員(学生時代の私)ほどぎこちない動きを繰り出すときがある。なんでや。何度も言うがここは世界卓球。卓球を磨き上げし者が立つ檜舞台。こなれた動き、柔らかい手首が躍動する中で、両手両足を一緒に出して行進するほどのぎこちなさが見られる。
しかも、気になったこと3つ目につながるが、なんだか打ち方がバチバチじゃね。ドライブよりもスマッシュ系。これは角度打ち専門のレディース界にどっぷり浸る私へのアピールか。親近感を覚えるじゃないか。ラーネフール氏への好感度が上がる中、同氏の渾身のバックサーブが決まった。おっ、やるじゃんと思ったらTTRに。どうやらトスの高さを問われたらしい。まもなく、AIかなんだかわからないけど最新の技術で、疑いようのない客観的な判定が何十年も前に買ったテレビ画面に映し出された……。ピピッツピピピピピ。32.31cm。
審判の声が会場に高々と響く。
「Challenge successful」と。
その瞬間、私はブーッと吹き出した。32.31cmだ。角度の話じゃないよね。だとしたら、これほどのサバ読みはあるだろうか。トスの高さは16cm以上がルール。その倍の高さを見誤ったのだ。何度でも言おう。ここは世界卓球。卓球に命を懸ける者が集まる神聖な舞台。それにもかかわらず大の大人。審判のプロが集まるなかで起きた珍事。やはり、この試合は何かが違う。何かが起こる。そんな匂いがプーンと漂ってくると、ラーネフール氏が逆チキータを決めて11-9でゲームをとった。むむむ。その何かが起こった。やはりこの試合、匂う、匂うぞ。
続く第二ゲームも私の心に大きな違和感が残った。ラーネフール氏はドライブミスばかり。思いっきり振って、からぶりする、打ち上げるといった豪快なミスが目立ったのだ。時折見せる手のひらで天を持ち上げる“お手上げ”のジェスチャー。もしや、もしや、この人はドライブが苦手なのでは? 初見の私はそんな極論に至った。しかし、ここは世界卓球。卓球を〇〇〇し者が~〇〇な舞台。ドライブが苦手な人がコートに立てるはずがない。そうだよね、王皓。と中国の監督である王皓に画面越しに同意を求めた。すると、王皓が虚空を見つめる。えっえっ、気づいた時には11-6でラーネフール氏がこのゲームもとっていた。なぜゆえに。どこを切り取っても林詩棟が勝っている試合に見えたのに。あのミスター・ベーターの今田耕司のような大げさなジェスチャーで林詩棟を油断させている間に点を重ねたのか? あとで見直さねば。
第三ゲーム。このまま3-0でラーネフール氏が勝ったらドラマティックなのに。私は詰まった鼻を膨らませた。ところが、ここからが林詩棟の真骨頂。林詩棟は3-10、6-10と大きく点を話して2ゲームを連取した。だよね。だよね。ここでもラーネフール氏のドライブミスが目立った。林詩棟相手に後ろに下がってドライブの引き合いも見られたが、最後はバックドライブが入らない。ラーネフール氏の“ドライブ苦手説”は、私の中で仮説から定説へとかわろうとしていた。このままの流れで5ゲームは林詩棟がとるのだろうな。きっと。
そもそもこの試合、フルゲームになることも想定外だったもの。最後の第五ゲームも林詩棟が6-2と点を離してリードした。それも当然のことだろう。やっぱ、林詩棟のドライブは美しいね。ゲーム運びも安定している。さすがTHE中国。この牙城はヨーロッパ勢には崩せないのかな。第一ゲームの終わりにプーンと漂ってきたミートボールの匂いは、いつのまにか小籠包の匂いに上書きされていた。ところが、ところが、何が起こったの??? ラーネフールはTTRを食らったバックサーブで点数をとるなど、急に追い上げはじめた。スコアは6-5、あと1点で追いつく。王皓は一瞬空を見上げたが、まだ余裕のある笑み。すると、ラーネフール氏は際どいコースにドライブを決めた。えっ、むっちゃくちゃドライブ上手いやん。
私はその質の高いループを見た瞬間、ラーネフール氏がある人物と重なった。そう、沼田さんだ。TBSの「モニタリング」で、素人卓人・沼田さんに扮した水谷隼氏。つけヒゲでおじさんに変装し、初めはできないふりをして、少しずつ実力を開放していく。その姿が今、目の前で見事なプレーで追い上げているラーネフール氏にぴったりとハマッたのだ。もしや、この山男のヒゲは相手を油断させるための戦術? 私は目をこすった。林詩棟も正統派プレーで点を重ねてスコアは9-7に。ここでまたしてもラーネフール氏のドライブが火を噴いた。例え一瞬でもドライブ苦手を定説にした数分前の自分をしばきたい。続く9-8の場面では、今度はバックドライブが炎を上げた。9-9の同点。試合を見つめる王楚欽の目が死んでいる。と、ここで激しいラリー戦に突入。ラリーはさすがに林詩棟に部があるだろうと高をくくったが、ここでもラーネフール氏が上回った。
コメンテーターが叫ぶ
「What’s happening now」
そのセリフ、私に言わせてよ。だって、今までのミスはなんだったのかと思わせるほどの凄まじいドライブ、今までのぎこちない動きはなんだったのかと思わせるほどのスムーズな動き。能力の完全開放に林詩棟も度肝を抜かれたに違いない。そして、迎えたマッチポイントは1ゲーム目のラストで見せた逆チキータ。11-9。ラーネフール氏が勝った。完全勝利だ。頭を抱えて喜ぶチームメイトのモーレゴードと握手を交わすラーネフール氏。誇らしげでいい。いいよ。
スウェーデンベンチが歓喜するなか、私はこの歴史的な試合をふり返って思った。山男スタイル、ぎこちない動き、前半のスマッシュバチバチ。これらがすべて相手を油断させるための戦術だったとしたら……。だとしたら、この男には誰もかなわない。この団体戦で中国に3-2で勝利したスウェーデンの立役者は間違いなくラーネフール選手なのだから。GW中に風邪で苦しみ、外に出られず腐っていた私を熱狂させてくれて、ありがとう。
私が4つ目に気になったのは、スウェーデンのイケアでもない、そのオランママでもない、ラーネフール選手。あなただ。

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