こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。2月24日の世界卓球女子決勝を観て心に残ったことを率直に綴ります。早田ひな選手、平野美宇選手、張本美和選手、おつかれさまでした!

屈強な孫穎莎だってひとりの女子

孫穎莎が泣いた。

卓球界では「全米が泣いた」を凌駕する最もインパクトのあるキャッチだと思う。そして、それが現実のものになった世界卓球2024。リアルで、テレビで、見てしまった人は、もらい泣きは大丈夫でしたか?

今回の女子決勝はドラマティック過ぎて、途中から日本と中国のどちらを応援しているのか自分軸がわからなくなる時があった。いつも泰然自若の陳夢が目鼻立ちの印象が薄れるほど、あんなにも心のゆらぎを見せられたら、おばちゃんは「頑張れ!」とつま先立ちで震える肩を抱きしめたくなるのです。

そんな陳夢に対して孫穎莎はすこぶる強かった。「今は(勝つ)可能性がゼロ。私の3つ上くらいにいる」と早田ひなも評価するほど。なのに、なのに、泣いちゃうのね。その涙には国家やチームメイトへの想いが含まれているのか。初戦でインドのムケルジ相手に黒星となった悔しさもにじんでいるのか。わからないけれど、ひとこと言わせて。

西村の胸、空いてますよ。

結果、日本の思い切りの良いプレーを跳ね返した中国はすごいけれど、日本女子チームも負けていなかった。早田ひなが陳夢にストレート勝ちだなんて。2年半前の東京五輪では片や中国の金メダリスト、片や日本のリザーバーだった。そこからの追い越しだもの。

続く、平野美宇も完ぺきだった。3番手の重圧と壁のように隙がない王藝迪をハリケーンで跳ね飛ばした。6年前のアジア選手権とはひと味違う大人のハリケーンで。勝ってもあの頃の無邪気さはなく、自分の仕事をやり終えたという雰囲気。しっとりと落ち着いていた。

そして、勝負の行方は最後の試合にまで持ち越され、張本美和ちゃんに託された。世界卓球初出場、若干15歳の中学生。「プレッシャー大丈夫? 最後まで戦い抜ける?」と親戚のおばちゃんのように前のめりで心配したレディースは多いんじゃないかな?

いざ試合が幕を開けると、美和ちゃんは気合十分。心配から期待へ。力強い「チョレーイ」という雄叫びが上がるたびに、「これいけるんじゃないの?」「53年ぶりとやらの黒歴史を塗り替えるんじゃないの」と、私の小さな心を躍らせてくれた。

監督と呼ばれた伊藤美誠もベンチで出場選手に熱心にコーチングしている様子を見ると、惜しみなかったと思う。アドバイスも応援も、そして愛情も。巡り合わせで同級生になってしまった美誠ちゃん、ひなちゃん、美宇ちゃんだけど、3人が同じ舞台で戦うなんてね。少年ジャンプに新人漫画シナリオ賞でもあったら応募したいほどドラマティックな話。それがリアルで起きてるんだから感動しないはずがない。

「昨日の敵は今日の友」。シングルスではライバル同士でも、団体やダブルスでは手をとりあって頑張らなきゃいけない。3人が女子のトップに躍り出た10年前、ドイツのワールドツアーのダブルスで最年少優勝を果たしたみうみまコンビ。そのころ、全国中学校大会で優勝を果たした早田ひな。そこからの10年は3人の目にどう映っていたのだろう。輝く未来、それとも先の見えぬ将来だったのか。

今回、決勝に進出した女子選手は15~30歳。普通の女子なら学校や会社から帰ったらリビングに寝っ転がって、スマホいじってのんびり過ごすのが日常。その膨大な時間を卓球だけに費やしてきた。それがすでに神ほど尊いこと。勝負の世界は1/2の確立で敗者が現れるのだけど、パリ五輪ではみんなに勝ってほしい。自分に。