こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。7月28日に開催された小学生の全国大会「ホカバ」。グリーナリーナ神戸に訪れた選手と親御さま、大きな感動をありがとうございました。

卓球母とは?

私は、ホカバを目指す子供たちの母親を“卓球母”と呼んでいます。卓球母は、一般的な母親とは似て非なる進化を遂げています。例えば動体視力。我が子の試合となると、きわどいエッジも見逃さない。公式審判員やビデオ判定よりも正確にジャッジできる能力が備わります。

また、進化の過程でMARKEY‘sではなく、卓球ショップで親子コーデを選ぶようになる人もいます。子供の授業参観でTシャツの袖にJTTAマークをちらつかせるお母さんがいたら、「あら、卓球母さん」とお声掛けして失礼ないでしょう。

そんな卓球母が一年に一度、我が子の成長に涙を流す小学生の全国大会・ホカバが、今年も開催されました。「誰がリーグ抜けた?」「誰がトーナメント進んだ?」と、ファンは卓球協会HPの更新に仕事中もソワソワしっぱなし。

私もそのひとりで、番狂わせが起こるたびに胸の中に熱い何かがこみ上げました。その“何か”の正体を私なりにひも解いたのでおつき合いください。

子供のプレーに凄みを与える魔物の正体とは?

「甲子園には魔物が棲む」といつ頃からか言われるようになりました。大舞台では最後まで何が起こるかわからない例えですが、魔物はどこを棲みかにしているのでしょうか? 大舞台のひとつ・両国国技館の地下は焼き鶏工場。力士がしこを踏む直下で、パートのおばちゃんたちが串を箱詰めにしているところを想像すると、和やか過ぎて魔物が寄り着く場所とは思えませんね。

「魔物は場所ではなく、人の心に棲む」と仮説を立てるとなんだかしっくりくる。大舞台を目指す子供とその親の心にはいろんな感情がうごめいているから。卓球母なら「リーグは抜けてほしい」「ランクに入ってほしい」の「〇〇してほしい」欲が身体からはみ出し魔物と化す。人類の三大欲求(食欲・性欲・睡眠欲)よりも上回ることがあるため、これは仏門に入るか、ヨガの瞑想に浸るか、卓球レディースを運営して気を逸らすか、自分で処理するしかありません。

それに対して子供の心に棲みつく魔物はいかなるものか?

親が一般人の子供の場合(西軍)……

「あの子はいいなぁ、思う存分レッスンが受けられて」「あの子はいいなぁ、親が経験者だから教えてもらえて」「あの子はいいなぁ、家にも卓球台があって」

親の家業が卓球関係の子供の場合(東軍)……

「あの子はいいなぁ、思う存分遊べて」「あの子はいいなぁ、親が優しくて」「あの子はいいなぁ、林間学校に行けて」

西軍も東軍も、子供は「あの子はいいなぁ、〇〇」の嫉妬が育ち魔物と化す。「嫉妬」「魔物」どちらもネガティブな言葉だけど、誤解を恐れずに言わせてもうらならば、私は子供たちにこの魔物を心の中で大切に育ててほしいと願います。なぜなら、

この魔物こそが大舞台での起爆剤となるから。

そう魔物とは自分の中に鬱積した膨大なエネルギー。「これだけ頑張ったんだから、絶対に勝ちたい!!!」の「これだけ」の部分には、すべての不遇を跳ね飛ばして卓球の強さに換えてきたプライドも含まれると、勝手に想像するからです。

「何かを選択するということは、それ以外のものを捨てるということです」。これは、私が高校時代通っていた河合塾のチューターが前髪をかき上げながら言い放った言葉。浅野温子風の女子大生に人生の何がわかるねん!!! と当時は愚痴ったけど、いや、間違っていないわ。

水谷隼選手が小学生時代にしたためた書のように、「卓球一筋」を貫いてこの舞台に立った子供たちは、誘惑という名のゴミ箱に、どれほど多くの迷いを捨ててきたことでしょうか? 親やコーチに甘えたい気持ちを封印してきたでしょうか? 「オリンピックで金メダルを獲りたい」そのピュアな想いだけでは決して本選には通れない。「自分ひとりでできる」いや、

親の理解と協力がないと7月28日のグリーンアリーナ神戸には来られない。 

夢を真剣に追いかけると、現実に直面するのは仕方がないこと。子供たちは親が月謝を用意するたびに泣き言を飲み込み、親が腰を曲げて球を拾う姿を見るたびに自分を鼓舞したかもしれません。

けれど卓球母は進化すると、「なんでサーブミスするのよ」とか子供の傷口に塩を塗ることを平気で言ったり、反対に子供が落ち込むと「結果よりも過程が大事」と慌てて心にもないことを言ったり……。TAKKYUUBONOSAGA

そんな外的魔物である卓球母からのプレッシャーをも食って飲み込むような大きな魔物を心の中で育てて、ライバルと戦ってほしいですね。

今回は魔法使い系のアニメ以上に魔物という言葉を頻出させてしまいましたが、ご安心ください。試合が終われば、西軍も東軍も関係なく、子供たちは会場の外で鬼ごっこ。魔物を手放し、強敵のライバルは最高の友達に変わるのですから。

そして、その子供らしい姿を見て、卓球母は普通のお母さんの顔に戻るのでした