こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回のテーマはバナナ。「バナナはおやつに入らない」という定説を覆された衝撃のエピソードです!
2021年4月26日に公開した特集「配り菓子アワード2021」は、おかげさまで多くの反響をいただき、苦労が報われました。なんせ、100人に「試合に持っていくお菓子は何?」って聞いて回ったんですから。そのなかには「なるほど」と思う良回答もあれば、聞いた瞬間、膝から崩れ落ちそうになる珍回答もありました。ひとつご紹介します。
とあるレディース大会の昼休憩。そこにおられた30代の男性コーチに↑のお菓子の質問を投げたところ、逡巡した後に出た答えが「バナナかな……」だったのです。私は夫婦ダブルス以来のゾーンに入りました。この件に関しては、小学校時代にクラスの担任が「バナナはおやつに入りません」と明確な答えを出しているはず。なのに、そんなバナナです。小4男子なら、遠足のおやつ代でバナナを買う子をつるしあげるところですが、こちらは大人女性です。「質問の仕方が悪かったのかな?」と自省して言葉をかみ砕き再度質問を投げました。すると、彼は中年女性の耳に十分届く音量で「バ・ナ・ナ」と滑舌良く答えました。
「パシーン!!!」。そのカタカナ3文字は、ブーメランのように勢いよく私のデコチン、さらにその奥にある前頭葉にヒットしました。「痛ってえなぁ。チクショー」。こうなればこちらも意地です。何が何でも自分の欲する回答へ導こうと、ありとあらゆる話術を駆使して粘りました。10分後、彼の口から「カントリーマアム」というお菓子の名前が出てきたときは、その大会で優勝したような気分になりました。なんという爽快感。思わず荷物をまとめて帰りそうになりましたが、そこから「休憩終わりです。試合、始めまーす」と別のコーチが皆に呼びかけました。どうやら私の押し問答が午後からの試合の再開を遅らせていたようです。
バナナはおやつのひとつとここに定義します!
この日、珍しく優勝できた私は(参加人数6名)、セロトニンの作用のもと、ぐっすり眠れるはずでした。なのに全然眠れん!!! 日中前頭葉に突き刺さった「バナナ」のブーメランが抜けないのです。そう言えば会場でバナナを頬張っているおじさんいたなーとか、森薗政崇選手がゲームの合間にバナナ食べてるの見たなーとか、「卓球×バナナ」で脳内検索された映像がどんどん上がってくるのです。「そういえば、部活仲間にバナナをもらったことがある。実は私に内緒で、みんなカバンにこっそりとバナナを忍ばせていたのではないか?」とさえ思う始末。バナナ外れ気分で枕を涙で濡らしながら眠りにつきました(飛躍)。
翌朝、京阪電車で仕事先へ移動。睡眠不足と試合の疲れで体はヘロヘロ。でも、頭の中ではうしろゆびさされ組の『バナナの涙』がガンガンと流れています。七条駅下車、薄紅色の桜並木に目もくれず、歩むとき、歩めば、歩むほど。小学生の帽子やら、たんぽぽやら、アヒルのおもちゃやら、黄色いものに無意識に反応。バナナの執拗さに驚きです。そして、五条大橋に差し掛かった頃、私は友達のある言葉を思い出しました「負けて勝つ」。これはある将軍の名言で「負けている方が実は勝っている」という意味だと友達から教わりました。コーチから「カントリーマアム」という言葉を引き出したあの時、私は勝った気でいましたが実は負けていたのです。
橋の袂から鴨川を眺めると、私のバナナ疲れを知らない鷺の群れが美しい羽を誇らしげに広げています。ゆっくり流れる時間の中で、その白い姿と黄色い胸の内はバナナシェイクのように美味しく溶け合って私の腑に落ちました。「コーチ参りました。バナナはおやつと認めます」。コーチに挑むこともなければ挑まれてもいない勝負に降参する清々しさは、それまで感じなかった新緑の匂いにも気づかせてくれました。そして、青々とそびえる雄大な比叡山を見上げ、友達が家康公の名言を誤解釈したことを詫びるのでした。