近畿大学の学生さんが卓球レディースのために書いてくれた卓球小説。卓球未経験の大学生が卓球をテーマにストーリーを考えると、人間ではなくラケットが主人公になるんですね。登場キャラクターのカラーも豊富で、ふむふむ。なななんと……これはおもしろい!

人間もラケットも親睦会シーズン

 ある日の午後。体育館の隅で、一本のラケットがのんびり日向ぼっこをしていました。

「ふぅ〜、今日も打たれっぱなしだったなあ。」

そうつぶやくのは、赤と黒のツートンカラーがトレードマークのラケット、通称“アカクロ”。この物語の主人公です。

 アカクロはちょっと気が短いけど、根は真面目。今日の試合で対戦したのは、同じく赤黒カラーの“クロアカ”。見た目がそっくりなのに、性格は真逆。いつもニヤニヤして挑発してくるやっかいなヤツです。

「おいアカクロ、今日も回転足りてねぇぞ〜」

「うるさい!スピン勝負じゃ負けてないから!」

バチィーンッ!とシャトルを打ち返したその瞬間、まるで火花が散ったよう。観客(人間)は盛り上がってたけど、二人の間にはピリピリした空気が残りました。

 その次の週、新しい試合が始まると、今度はやけに派手なラケットたちが登場しました。

「ピンクちゃんです☆ よろしくね〜!」

「おいら緑ラケ!スピード勝負で行くぜ!」

「黄色先輩って呼べや!」

……体育館がいっきにカラフルになりました。

 アカクロは最初、彼らを「派手なだけで中身がないやつら」と思っていました。

でも、いざ試合が始まると、それぞれにクセと実力がある。

ピンクは軽くてテンポがいい。

緑はパワーがすごい。

黄色は……やたらうるさいけど、チームをまとめるのが上手。

勝ったり負けたり、汗をかいた(?)日々が続きました。

 そうして全試合が終わるころ、人間たちは「おつかれ〜!」と笑いながら、漬物とかお菓子を交換していました。

どうやら“親睦会”というやつらしい。

ラケットたちも、人間たちの手で一か所にまとめられ、壁にずら〜っと立てかけられました。まるで兵隊の整列みたい。

 でも、空気はどこかギスギス。

クロアカはアカクロをチラッと見て「まだ根に持ってんのかよ」とボソリ。

緑とピンクもお互いに「あなたこそ」「いやそっちこそ」と視線で小競り合い。

そんな中、黄色ラケットが「ま、まぁまぁ!せっかくだし“ラケット親睦会”でもやろうぜ!」と声を張りました。

 最初はシーンとしていましたが、少しずつ会話が始まりました。

「おまえのスマッシュ、あれ効いたぜ」

「おまえのスピン、なかなかいやらしいな」

「ごめん、あのときラバーでちょっとムキになってたわ」

ギスギスしてた空気が、だんだん柔らかくなっていきます。

笑い声(たぶん金属音)まで聞こえてきて、体育館の隅っこはなんだかほんわかムード。

 そのうち人間たちの親睦会もお開きに。

体育館の電気がパチッと消えると、ラケットたちはみんな、黄色ラケットの面を中心に寄りかかるようにして倒れました。

重なり合うように、まるでひとつの「和」になったかのように。

アカクロは目を閉じながら(目ないけど)、ポツリとつぶやきました。

「……悪くない一日だったな。」

 ——つづく