こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。高校時代に愛読していた卓球情報誌「卓球レポート」。学生時代に熱狂していた雑誌の思い出をここに。

ティーンズ情報誌「Lemon」は今でも私の光

私は雑誌が大好きです。雑誌を買いはじめたのは小学4年生のころ。ティーンズ情報誌「Lemon」という少女雑誌からでした。「Lemon」の中身は愛、占い、おしゃれの3本柱。中高生になる前の予習気分で読んでおりました。それも長時間。家にいる時間を円グラフにすると、かまぼこ型ほどの割合は「Lemon」に費やしていたんじゃないかな。ためになる記事があると切り抜いて、スクラップブックに貼るほどの熱心さ。要点もまとめていたと思います。小学校の勉強は予復習なんてやったことなかったから、ホントに好きだったんですね。雑誌、そして「Lemon」が。

私はこのスクラップブックを鍵付きの引き出しに大切に保管していました。家族に見られたら恥ずかしいし、大事な宝物だったもので。ところが、その年のお正月、親戚が家に集まっていた日に、居間のちゃぶ台にうっかりと置いたままに。そしたら口の軽い親戚のおっちゃんが、このスクラップブックを発見。

おっちゃんはお酒が入っていたのでしょうか? 「お~い、友紀子がこんなん作ってるで~」と、うちに集まっていた親戚の大人たちにスクラップブックを見せて回りました。最悪なことに、おっちゃんが開いていたページは「彼氏との初デートのファッション。ここだけは気をつけよう!」みたいな恋愛特集のスクラップ。

「やめて~、返して~」とお願いしましたが、親戚軍団はおもしろがって誰も返してくれません。それどころか「『オオカミくんの見分け方』やって、イヒヒ」と私が厳選した切り抜きをお酒の肴にして爆笑しておりました。

そして、大人たちは酔いがさめると、「小学生やのに、ませてる!」と非難ゴウゴウ。辱めを受けた10歳のお正月でした。

なんでやねん。恋愛よりも卓球情報に首ったけ! 

それから6年後、私の雑誌熱は「Lemon」を軽く超えていました。もっと愛読したい雑誌が現れたのです。それは「卓球レポート」という卓球の専門誌。そこにはおしゃれや恋愛の情報は一切ありません。卓球門に入ったものだけが文字を追いかけることができる硬派な読み物とでもいいましょうか。当時、高校の卓球部だった私は、卓球部のロッカーの天袋に積んである「卓球レポート」を持ち帰って読むのが楽しみで、楽しみで。タメになる記事はスクラップブックにまとめたい衝動にかられましたが、いかんせんこれはクラブの所有物。役立ちそうな技術のポイントなどは自分の卓球ノートに書き写す、写真解説は片道1キロある母の喫茶店でコピーをとり卓球ノートに貼るなどしていたのです。まじめですね。いや、まじめかな???

私は卓球レポートを授業中も読んでおりました。。。 ( ゚Д゚)

入部当初の私の家時間を円グラフにすると、パックマン型ほどの割合は「卓球レポート」とに費やしていた。それでも物足りなくて、授業中、卓球ノートに“日”という漢字の形に似た、コートの図をいくつも描き、その日の部活の課題練習を「卓球レポート」を参考に考えていたのでした。「今日はカットマンのN先輩と課題練習ができる。どう返してもらおうか……」などと思いを巡らせながら。その“日”をいくつも描いて考えている時間が至福で、至福過ぎて、先生の目があることをすっかり忘れておりました。

ある日、先生に「授業中に卓球の雑誌読んでるやろ。マンガ読まれる方がよっぽどいいわ」と嫌味を言われましたが、はて??? 当時の私はその意味がよくわかりませんでした。だって、漫画は学校に持ち込んではいけないもの。対して「卓球レポート」は学校に置いてあるもの。部費という学校のお金で買ったものなのです。しかも、それで卓球が上達してトロフィーを持ち帰れたなら、学校に錦を飾ることができるというのに。

SENSEIANOTOKIGOMENNE m(__)m

先生を困らせた罰が当たったのかな。きっと。私はその2年後、大好きな卓球にけじめをつけることになります。3年生の引退のタイミングであっさりと卓球をやめることにしたのです。心の整理をつけてくれたのはこれまた「卓球レポート」。10代のおバカな私は、自分の卓球ノートを師と仰いで技術を積み上げた先には、高校生スタートでもかなりの実力がついているんじゃないかと期待しておりました。その頃、「卓球レポート」をにぎわせていた松下兄弟のように。繊細かつダイナミックな卓球ができるようになっていると。たかが弱小公立高校の女学生がまとめ上げた卓球ノートに、名監督も落札を請う価値を自分勝手につけていたのです。

それだけに、ある日、目にした「卓球レポート」の記事はショックだった~。そこには元中国代表選手の卓球ノートが掲載されておりました。一切のムダな動きを省くために、その中国選手はミリ単位で体を調整する日々をノートに細かくつづっておりました。フォームを鏡で確かめながら、「足幅を2mm内におさめた」みたいな。はっきり覚えていませんが、とにかくボールに手が届く距離を1mmもロスしたくない。そんな執念さえ伝わってくる珠玉の卓球ノートだったのです。これには私もストレートに脱帽。

「こんなこと、私にはムリや~(涙)」

うすうす気づいてたけど、やっぱり卓球って神々のスポーツだったのです。「卓球レポート」の写真解説を切り貼りすることが中心の二番煎じな我が卓球ノートがちっぽけに思えました。そして卓球もちっぽけなくらいしか上達しなかった自分に嫌気がさして、高校卒業後、私は卓球ノートやユニフォームを箱にしまって自宅の庭に埋めました。二度と、卓球をすることはないだろうという思いで土をかぶせたのです。

ところが、あれから云十年たった今、再び卓球にハマっています。ハマってるどころか、WEBメディアまで作ってしまいました。たまに高校時代の卓球を思い出したい衝動にかられますが、あの時、自分が卓球ノートに綴っていた事柄をひとつも覚えていません。それどころか、「Lemon」で学んだ初デートのファッションのポイントも、そもそも初デートがいつだったかも覚えていないのです。ページがヨレるくらい、何度も何度も読み返したはずなのに。

人生ってそんなものなんですよね。所詮。だけど、あの時の雑誌への熱狂は今も私の胸に波動として残っています。おそらく、土の下に眠る卓球ノートにも。今ごろ卓球ノートの上には草が根を生やしていると思ううのですが。養分にしてくれているでしょうか。その情熱の波動を。