こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。「卓球部は根暗」。そう呼ばれた過去があったことを若い世代は知らないかもしれませんね!

「陰キャ」。昭和生まれのおばちゃんにはアバンギャルドでカッコいい若者言葉。漢字とカタカナのバランスもいいし、リズミックな響きもいい。こういう言葉が時代の中で生まれる日本はSO COOLな国ですよね。

私が青春を過ごした30年前、卓球部員は「根暗」と言われていました。「陰キャ」とは一時代を画しますね。「根暗」という言霊に憑りつかれた卓球部員の中には、新天地で卓球部の過去を葬り去る人もいました。

私もその一人。「学生時代の部活は?」と初対面の人に聞かれたら「バスケ」と答えるようにしておりました。中学時代はバスケット部だったので嘘ではありません。けれども私は飲みに行った帰りにゲームセンターの卓球コーナーで迂闊にラケットを握るうっかり者。仮面がすぐにはがれてしまう。

昔、送別会終わりの卓球でバイト先のコンビニの店長と対戦した時、お遊びのはずが本気になったことがあります。なぜなら店長も経験者だったから。店長から1ゲームをとると「ありえへん! 俺は中学時代、卓球推薦をもらった人間なんだゾ!!」と吠えられました。私は完全に酔いが覚めました。店長とは2年のつき合い。がたいの良い店長の部活を詮索したことはありませんでしたが、まさか卓球部だったなんて……。

『行け!稲中卓球部』の新刊を立ち読みして怒られた時も、卓球の卓の字も出さなかったポーカーフェイス野郎。今日でお別れという日に酔った勢いでカミングアウトとはこれいかに?!

気づけば21点制でサーブは5球交代。店長と私は正式なルールにのっとり試合を繰り広げておりました。お互いに心の中でつぶやいていたはずです。「自分のラケットがあったらもっと攻められるのに……」。ゲームセンターのラケットは経年変化をとげたラバー貼りラケット。アンチ並みにツルッツルです。条件が悪いのはお互いさま。負けず嫌いの店長は私がポイントを奪うたびに、服を一枚一枚脱ぎ棄てました。ジャケット、ネクタイ、靴、くつ下、そしてシャツを腕まくりしてからのシャツを脱いでTシャツ1枚に……。一体何の野球拳ですか!!! 

元弱小高校卓球女子VS元高校推薦卓球男子。どちらが強いか決着をつけたかったのですが、いいところで酔っぱらったバイト仲間が乱入して結局勝負はうやむやになりました。もっと試合がしたかった……。私の心残りが店長に伝わったのか、最後に「また卓球しよう」と店長に肩を叩かれました。私はコクっと頷きましたが約束は果たされぬまま会うこともなく今に至ります。

店長が今どこで何をされているかは知りません。もし会える機会があれば「卓球推薦をもらった」という輝かしい過去を堂々と自慢される姿が見たい。卓球部は根暗→陰キャという潜伏期間を経て今、人気の部活になりつつあります。店長の心の扉はもう開かれているかもしれませんね。