こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は女子卓球部時代の回想。ペン裏ロビングマンのKさん、どうしてるんだろう。

今から30年前、私が女子高生だった頃、私の半径30キロメートルには卓球を教えてくれる人がいませんでした。良い意味でも悪い意味でも。唯一の情報源は部費で買う「卓球レポート」。読み漁りましたね。とはいえ百云十ページ/月の情報は人間の脳が十分処理できる量。卓球部員同士で共有する情報が数えられるレベルです。この状況から何が生まれるかと言うと、技なんですよね。「ボールのこの角度にラケットをあてて……」「この技名は……」なんて洗脳がなかったら、みんな好き放題。打ち方にも個性が生まれます。

「中年以上の卓球人は打ち方やボールにクセがあってやりづらい」とつぶやく若人をたまにみかけますが、面目ない。。。。私もそのひとり。

私、こういうものです。「(名刺)卓球のクセが強い中年女性」。

言い訳すると、このクセの強さは高校時代の部活仲間Kさんの影響です。Kさんの戦型はペン裏のロビングマン。試合の序盤は前陣で戦うのですが、相手のネットインやエッジなど不運が続くとキレて後ろに下がりロビングしだすのです。しかも普通に当てるのではなく、ラケットをあらゆる方向にグイーンと曲げて返します。ボールが相手コートに戻ると、打った本人も予測がつかない方向に飛んでいく。今の常識を当てはめるなら、丹羽孝希選手のカットブロックや、伊藤美誠ちゃんの逆チキータ、加藤美優選手のミユータといったところでしょうか。それを台ひとつ分下がったところであれこれやってのけるのです。

そんなキテレツな女子は体育館を見渡してもKさんだけ。予測できない変化に翻弄されて、泣き出す相手選手もいました。しかし難しい技だけにミスも多い。ふつうに前陣でやってりゃ勝てる相手にも負けることがあったので、私たちはKさんが後ろに下がるたびに「下がるな!!!」と注意しておりました。

だけどKさんはボールを曲げても意志を曲げない頑固者。引退までそのスタイルを貫きました。基本に忠実な卓球をするキャプテンのNちゃんは「相手選手に失礼なプレーである」とKさんをたいそう非難しておりました。ところが、ある日の試合でNちゃんは相手にマッチポイトを握られると、台上で曲げ曲げレシーブを繰り出してしれ―っと逆転勝ち。それは我々女子卓球部員にKさんの技が解禁になった合図でした。私はその技を「Kさん」と命名。学名に発見者の名前がつくことがあるように、これはKさんに対するオマージュです。

のちに逆チキータという技名になる「Kさん」。相手から短いサーブがくると、私はほとんどコレで返し、ウブな女子を泣かせました。そして我々、弱小公立高校女子卓球部員は、まわりの弱小公立高校女子卓球部員より、頭ひとつ抜けることができた。それもこれも「Kさん」を授かったおかげです。

……とまぁ、その節は大変お世話になった技ですが、大人になった今も「Kさん」を使っているかと言うと……NO。刀は鞘に納めっぱなしです。世間体ってやつですかね。周りで卓球をしている学生を見ると、「Kさん」が悪あがきに思えて使うのが恥ずかしくなるんですよ。今の子はフォームが美しいし、絵に描いたような卓球するから。いつ見ても「きれいな卓球」とうっとり。だけど無性にKさんの破天荒なプレーが恋しくなるときがあります。ネット&エッジと運を味方につけた者に対するKさんの後ろからの制裁。もう一度見たかったなぁ~。カレーばっかりじゃ飽きる。たまにはハヤシライスをと思うのは私だけでしょうか。