こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。今回は東京オリンピックの新種目・混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷・伊藤ペアの躍進劇について書かせていただきました。ここから先も頑張れニッポン!

東京オリンピックが開催。一年先延ばしの未来は現在に至りました。お預けだった卓球の頂上決戦がテレビで放送される。アスリート、運営者、観戦者が最大限の感染対策をして実現したことに頭が下がります。

卓球はオリンピック新種目・混合ダブルスから日本人選手の登場。日本代表の水谷・伊藤ペアの初戦。一ゲーム目から膝をバンバンと叩いて応援する自分のテンションに驚きました。それも電車内で。私は国際試合の観戦に飢えていたことに気づかされました。そして全集中でプレーする水谷・伊藤ペアも国際試合に飢えていたのではと慮りました。

疫病の暗雲が世界の上空に垂れ込めてからおよそ1年半。ITTF主催の大会が次々と延期や中止に。SNSから試合情報の賑わいもなくなりました。今まで当たり前のように観ていた国際試合がテレビから消えると、生活に覇気がなくなって寂しいものです。「決勝は夜中の3時から? 勘弁してよ~笑」なんて騒いでいた頃が懐かしい。果てしなく続くシャッター街を歩くような気分で日々を送っておりました。

そんな私に準々決勝はエモ過ぎた。ドイツのフランツィスカ・ソルヤ戦。フルゲームにもつれ込む大接戦でした。最終第7ゲーム、ドイツペアが連続で5点をとって0-5でチェンジエンド。1点をとることなく半分が過ぎた日本ペアの心境はどうだったのか? 美誠ちゃんは口角を上げて顔の下半分に笑みを作りましたが、目は遠くを見つめていました。その表情が印象的で胸に何かがチクッと刺さりました。そこから先もドイツペアに流れがあり、動きが鈍くなった美誠ちゃんのフリックがオーバーして2-9に。ここまでくると正直、観ている方も握っている手の汗がひいていきます。初中級のローカル試合でも、7点を奪い返すというシーンはめったにお目にかかれない。ましてやオリンピックの大舞台、卓球を極めた者同士の戦いで少年漫画のようなどんでん返しは期待できないと思いました。

ところが、そこから先の戦いに全日が震撼しました。勝利へ一歩一歩ゆっくりと試合を進めようとするドイツペアに対し、水谷選手が喝を入れるようなスマッシュ、意表を突くストレートへの流し。水谷選手が自分たちの流れを作り出そうとしているように見えました。タイムアウトを経て6-9に。「この調子で頼む~」と手を合わせた瞬間にソルヤのカウンターが決まり6-10。ドイツがマッチポイントを握りました。私は疫病神かと、肩を落としかけましたが、落とさなかった。なぜなら美誠ちゃんの目つきが勝負師の強い眼差しに変わったから。そして、KING水谷の面目躍如たる4連続得点。10-10に追いつきました。水谷選手は両こぶしを上げてガッツポーズ。その瞬間、私の胸に刺さっていたものが少し抜けて、ジュワッと涙が出ました。テレビに映る田勢コーチも心なしか目を潤ませていたような……。そこからは一進一退の攻防を繰り広げ、最後は美誠ちゃんのサーブが決まり、16-14で水谷・伊藤ペアが勝利しました。オリンピックの卓球史に残る大逆転劇。ゲームが終わった時、私はすでに号泣していました。ポロっと出た涙がボロボロと流れる涙にかわるなんて。安堵と感動。こんなにキレイな涙を流すのは出産以来だと思います。胸に刺さっていたものが完全に抜けていました。

この試合を受けて、卓球はやはりメンタルが大事だという話をいろんなところで聞きました。私は技と体も大事だと付け加えたい。失敗が許されない場面で強気のプレーができるメンタル。その思いを実現できる技がある。その技を実行できる体がある。(四十肩のおばちゃんには無理な話ですからね)。卓球のトップ選手、その中の頂点に立てる心技体を作り上げるのにどれほどの時間と苦労が必要だったのだろうかと。気が遠くなるような練習量と試合経験。日々の自問自答と一喜一憂。自分と向き合いながら、現実と折り合いをつけながら、一心不乱に目指す頂。そこから見える景色に何を求めるのでしょうか?

テレビを見ると、ソルヤが放心状態で遠い目をしていました。彼女も間違いなく頂を目指してきた者の一人です。側にいたら、母性で彼女を抱きしめたい衝動にかられたことでしょう。私は溢れる愛情の行き場所を探し、隣で寝ていた猫を抱きしめました。すると、「ふぎゃっ(なんやねん!)」と私の手を噛んでスタコラ逃げていきました。私の胸に甘えたい哺乳類はいないようですね。