卓球を迂回してライフスタイルの話題へ。レディース世代の卓球選手の過去・現在・未来がわかるインタビューコンテンツ「今月の卓球レディース」。5月のゲストは樋浦令子さんです。反面教師の娘から学ぶ令子さんの子育てとは?
産前産後も仕事中心の生活にブレなし!
全日本選手権女子ダブルス準優勝の実績を持つ樋浦令子(38)さんはイメージ通り、自己管理能力界のてっぺんにおられる方でした。体調や生活、仕事を意のままにコントロール。妊娠初期に指導中の高校生にフットワークの見本を見せ、妊娠9カ月で夜11時まで練習につき合う。そして出産後、乳腺炎になってもトイレでサクッと搾乳を済ませ講習会の仕事をさらりとこなす。DEKIRUONNA。
私が「しんどくなかったですか?」とふんわりナックルサーブを送ると、
令子さんは「仕事が楽しみですから」と鋭いチキータを一撃。
恐れ入りましたーっ(土下座)!!!!!
コンマ1ミリの隙もない。崩せるポイントがない。平凡な主婦は共感できない。
インタビュー開始早々から3NAIの白旗をあげようとしたところで、令子さんの本音のボールがネットに引っかかり手前にポロリと落ちました。
「今まで自分のペースでやってきたからこそ、予定通りにいかない子育てにもがいています」と。
「娘に怒ると親に怒られる。味方はいません」
令子さんは6歳と4歳の姉妹のお母さん。長女の平 鈴莉空(たいら りりあ)ちゃんは3歳から卓球を始めました。指導者はもちろん令子さん。家の敷地内にある卓球場で毎日2~3時間レッスンをしています。卓球の練習を通して、幼い娘さんとさぞ楽しい時間を過ごされているんだろうなぁと思いきや、ここは女同士の壮絶なバトルの場なのだとか。
「娘は口が立ちます。卓球のことを注意したら『言ってることが昨日と違う!!!』と言い返される。『やべっ』ておもうんですけど、負けを認めたくないからこちらも言い返す。お互い引かないから、いつの間にか会話が勝負へとエスカレートするのです」と令子さん。そんなお二人の姿を見て、ご主人の平亮太さんも「大人か子どもかの違いだけで、まんま一緒の性格」と評されるほど、負けず嫌いの似た者親子なのだそう。
「娘は完璧主義者。自分の思い通りにプレーができないとイライラします。その態度が私とそっくり。自分の姿を見せられているような気がして余計に腹が立つのです」。怒っても怒っても、おじいちゃん&おばあちゃんは「鈴莉空が正しい」と孫の味方。完全アウェイの中で孤軍奮闘する令子さん。
「自分の子供だから『もっとこうできるやん』って細かいところまで口出ししてしまう。求めすぎる自分に日々反省しています。自分が選手だった頃は、当たり前にこなしていた練習メニュー。娘にも今日はここまでやってほしいと望むのですが、相手はまだ6歳。学校から帰ってきたら『眠い』と言われる時もあります。練習プランを決めてもその通りにはいかなくて、もどかしいですね」。
鈴莉空ちゃんの監督として厳しく接する令子さんですが、母の顔に戻るときもあります。最近、出始めた試合では、勝負よりも鈴莉空ちゃんが一人でコートに立つことが心配なのだとか。
「鈴莉空が試合に出ると、自分が選手時代に味わったことがない緊張感が起こります。緊張しておもらししないかな。水分補給ができているかな。ルールがわかるかな。自分でボールを拾って相手に渡せるかなって……」。
子供に対して怒ったり、反省したり、悩んだり、心配したり……。
それは全身全霊で子育てをしている証。令子さんは隙のある普通のお母さんでした。
「一日の最後は優しいお母さんでいようと思って『今日のここはよかったね』って寝る前に褒めるようにしています。鈴莉空も『うまくできたらギューして、抱っこして』って甘えてくるので……。まぁ、心に余裕があるときは……ですけど」。エクスキューズを入れて照れ笑いする令子さん。
バトルからスキンシップへ激しく変化する母子の一日。
女友達の彼氏の悩みを聞いていると、最後にノロケに変わることがありますが。
令子さん、これはその類の話でしょうか?
樋浦 令子
10歳から卓球を始め2年後に四天王寺学園へ。全国中学校卓球大会 女子シングルス優勝、 全日本卓球選手権大会 女子ジュニア(シングルス)準優勝。高校卒業後はミキハウスに入社。全日本卓球選手権大会 女子シングルス準優勝、女子ダブルス準優勝。現在はミズノのアドバイザリースタッフとして、全国の講習会で指導を行う。