こちらは『卓球レディース』編集長の西村が、NOルールで綴る馬鹿馬鹿しい卓球日記です。卓球の反省会ほど楽しい宴はない。わかるよなぁ酒よ。

反省会の場所はマクドナルド~居酒屋へ

涙にはいくつもの思い出がある~♪

1988年にリリースされた吉幾三の歌「酒よ」。下戸の父がカラオケで何度も歌ってたけれど、子供のころはこの曲の意味や良さなんてさっぱりわからなかった。

それよりも、新日本ハウスのCM曲「あ、住み慣れた、我が家にぃぃ~」の方が好きだった。私のナチュラルな鼻声で、こぶしを交えて歌うと、周りのOLたちが腹を抱えて笑ってくれた1曲。

吉幾三と言えばバラエティ畑が職場というイメージが強かったから。あの誇張があるのかないのかわからない津軽弁を聞きたくてテレビで彼を見ていた記憶があるな。

そんな吉幾三がバラエティで大活躍するころ、私は高校生で卓球に夢中だった。数か月に一度開かれる大会はいつも決まって京都府立体育館。そこの売店でカップヌードルを食べるのが楽しみで待ち遠しくて。試合の日はお母ちゃんに「お弁当いらない。そのかわりお金ちょうだい」と言って100円玉を握らせてもらった。

お昼になると売店に行列ができるのだけど、みんな買うのはやはりカップヌードル。その一択。売店の壁にはカップヌードルが積み上げられていた。まるで見上げるタワマンのように。お店のおばちゃんも卓球の試合がある日は気合入れて発注してくれていたのがわかるな。

そんなおばちゃんとメーカーの意図を裏切るように、チームメイトのKさんは「麺をふやかして食べるのが好き」という理由から、4分待って食べてた。食感悪くて絶対おいしくないと思うんだけど、私より1分遅れて食べて、食べ終わるKさんのカップヌードルは増量感があってうらやましかった。

反省会の場所はマクドナルド~居酒屋へ

試合後もお楽しみは続き、帰路で乗り換えるバス停近くにあるマクドナルドで反省会を開くの大会後の恒例。ある日、私の愛読ティーン雑誌に、“デートで可愛く見えるビッグマックの食べ方”みたいなコラムがあって、私はそれを大好きな先輩の前で披露したくてうずうずしていた。ある日、いつもより多く御飯代をお母ちゃんからゲットした私は、迷うことなくビッグマックを注文。ティーン雑誌の情報によると、大きく口をあけてビッグマックをほおばるのは下品でNG。箱の上からハンバーガーを抑えてつぶし、平らかにして上品に口をあけて食べるのがモテるポイントとのこと。

私は一休さんが堂々と橋の真ん中を渡るように、これが正解と言わんばかりにゲンコ一発で箱を潰した。愛しい先輩の目の前で。男子の先輩たちは「西村、何してんの!!!」と驚いていたけど、まぁまぁ見ていてください。ドライブの方法はあなたたちから教わったけど、ビッグマックの食べ方は私が教えますから、と余裕の笑みでフタを開けた。

すると、箱の中にはレタスとソースが散らばり、ぺっちゃんこになったビッグマックが……。「大丈夫? それ食べられる?」先輩たちは心配してくれたけど、私は「大丈夫です」と言いながら、かろうじてつかめるところを持ち上げて、手をソースでべたべたにしながら食べた。平たくなったビッグマックは、もはや一体ではなく、ぐちゃぐちゃになったハンバーグやバンズの層をそれぞれ分けて食べるしかなかった。超みっともなく恥ずかしい思い出。

だけど、そんな負の光景も笑いに変わるほど、マクドナルドでの反省会は楽しかったなぁ。「うわっ、サーブうまっ。ってつぶやいたら、相手が次のサーブミスりよった」という先輩の下世話ネタが場を盛り上げる。自分たち1年生は何も話さない、ただ先輩の話を聞くだけで楽しくて、同じ話を何度聞いてもずっとゲラゲラ笑っていた。口の周りにソースをいっぱいつけながら。

私に青春というものがあったのなら、間違いなくこれはトップページに載るエピソードだ。それから25年後、先輩たちが今どこで何をしているかわからないが、私の卓球反省会の場所はマクドナルドから居酒屋に移った。

いつも試合帰りによる中華料理店は40人近く入れる大箱。ここは飲み食べ放題3000円とリーズナブルなのだが、飲み放題は活用するものの、食べ放題は1度再注文するかどうかのコスパ負けだ。けれども、食事を忘れさせてくれるほどの楽しさがここにもある。もちろん、憧れのイケメン先輩はいない。目の前には私と同世代のおばちゃんとおじちゃんがずらり。会話の内容は「〇〇さん、試合の休憩時間に1杯飲んだやろ。あんたはアルコール入った方が強いわ~」といったこれまた下世話ネタ。私はほとんど話さない。ただ周りの人の話を聞くだけ、その場にいるだけで楽しくて、同じ話を何度も聞いてゲラゲラと笑う。口の周りのビールの泡をつけながら。お箸を持つ手をとめて。この瞬間が永遠に続けばいいとさえ思う。

楽しい宴の日曜が終わると、またせわしない月曜日がやってくる。そして一日を終えると缶ビールを一本、仕事を頑張った自分へのごほうびに。

ひとり酒 手酌酒 演歌を聴きながら~♪

ひとり静かに父の歌声を思い出す。吉幾三の演歌は誰が歌っても酔いしれるほどいい。その良さはわかる年になった。けれど、毎晩のひとり酒、手酌酒はまだまだ寂しさを覚える。卓球の反省会の思い出に浸りながら呑む私はまだ子供なのだろうか?